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線路はつながった―三陸鉄道 復興の始発駅 [著]冨手淳

[評者]原武史(放送大学教授・政治思想史)

[掲載]2014年04月06日

[ジャンル]経済 社会

表紙画像

■無数の声に耳傾ける民主主義

 今日(4月6日)、三陸鉄道北リアス線の小本―田野畑間が開通する。昨日、南リアス線の吉浜―釜石間が開通したのに続いてこの区間が開通することで、三陸鉄道は完全復旧を果たした。
 東日本大震災から3年あまり。この間、被災した東北太平洋岸のJR線の復旧は遅々として進まなかった。いまなお、鉄道の復旧自体が明らかでない区間もある。なぜ三陸鉄道だけが、これほど早く完全復旧できたのか。社長とともに復旧に尽力した一人の社員が、本書でこの素朴な疑問にこたえている。
 著者は、震災から2日後、社長とともに車で被災した沿線の視察に出掛けた。予想以上の惨状を目のあたりにして、2人は言葉を失う。だが次の瞬間、社長は著者にこう言ったという。「とにかく列車を走らせよう」
 震災から5日後に一部区間の運行が再開されたのは、社長のトップダウン的な決断によるところが大きかった。確かにトップダウンは「民主主義」とは異なる。しかし、もし社員が集まるのを待って会議を開き、一人ひとりの意見を聞きながら対応を検討していたならば、運行再開が遅れるどころか、廃止に追い込まれる可能性すらあったと著者は回想する。
 著者は津波で流された島越(しまのこし)駅の跡地で、「三鉄、いつ動くんだ?」と呼びかけられ、この一人の声の背後に復旧を待ち望む無数の声があると感じた。言い換えれば、そうした声に耳を傾けることこそが、真の「民主主義」ではないかと考えたのだ。この思考の転換は感動的である。
 三陸鉄道には、都市部の鉄道と違ってICカードもなければ自動改札もない。窓口で切符を買ったり、運転士の前で運賃を支払ったりする。その一見原始的な方法が、社員と乗客の間に会話を生み、強い絆を作り出してきた。鉄道の原点とは何かを、本書は読者に鋭く問いかけてくる。
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 新潮社・1296円/とみて・あつし 61年、盛岡生まれ。三陸鉄道旅客サービス部長。車掌・運転などの現場を経て現職。

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