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難病カルテ―患者たちのいま [著]蒔田備憲

[評者]荻上チキ(「シノドス」編集長・評論家)

[掲載]2014年04月06日

[ジャンル]医学・福祉 社会

表紙画像

■当事者の人生、丹念に聞き出す

 ある日。毎日新聞佐賀県版で連載されていた記事が目に留まった。内容に圧倒され、既に掲載されていた数十回分を一気読みした。
 連載名は「難病カルテ」。著者の蒔田は、多くの難病当事者に会い、生活を描写し続けてきた。感動的な闘病記でもなく、告発的なルポルタージュでもない。当事者の「顔」を、抑制された筆致で伝え続けた。当事者らを他者化せず、隣人として想像して欲しいという願いが伝わってくる。
 難病は、現代の医学では治療が困難な病気の総称だ。原因が不明で、治療法が確立されておらず、経過は慢性的。身体的にのみならず、精神的にも経済的にも負担が大きい。医療費だけでなく介助も必要となる。制度も複雑。手続きは煩雑。理解は不足。「困ること」づくしだ。
 患者の人数は、定義次第で変わる。医療費の一部助成がなされる難病は56疾患(約81万人)だが、指定されていない病気も多く、広くは5千から7千種類とする研究もある(すごい幅だ)。「数万人に一人の難病」というフレーズはよく聞くが、「何かしらの難病にかかる可能性」は意外に高い。
 各病状の説明を欄外の短文で済ませ、本文では各人の人生に焦点を当てていく。人は「特定の当事者としての人生」のみを生きるわけではない。その人たちにとって、難病がどういう意味を持つものなのか、丹念に聞き出している。難病と一口に言っても、ALS(筋萎縮性側索硬化症)と皮膚筋炎ではニーズが大きく異なる。生活に注目することで、向かうべき社会の形も浮かんでくる。
 支援者インタビュー、当事者座談会、用語解説にコラムも充実。丁寧な作りだ。難病研究だけでなく、地域生活に密着する報道のサンプルとしても金字塔となろう。潰瘍(かいよう)性大腸炎という難病を持つ当事者でもある安倍首相も読んで欲しいな。いま、難病政策も大きく動こうとしている。
    ◇
 生活書院・2376円/まきた・まさのり 82年生まれ。05年毎日新聞社入社。佐賀支局などを経て4月から水戸支局。

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