おさなごころを科学する―進化する乳幼児観 [著]森口佑介

[評者]佐倉統(東京大学大学院情報学環長・科学技術社会論)  [掲載]2014年04月06日   [ジャンル]教育 人文 

表紙画像 著者:森口 佑介  出版社:新曜社

■「大人とは異なる存在」として

 本書の終わりに近い第8章「仮想する乳幼児」で、〈空想の友達〉に関する著者自身の研究が紹介されている。小さな子供たちはときどき、そこに架空の生き物がいるかのようにふるまう。話しかけ、ともに遊ぶ。『となりのトトロ』の世界である。一見不気味な現象だが、さほど珍しいものではないという。
 なぜ子供はこのようなことをするのか? 著者はそこに積極的な意義が存在するはずだと追究していく。ひとりでいる寂しさをまぎらせ、楽しさを作りだし、みずからの認知能力を高める訓練にもなっているのかもしれない、と。そして、大人に見られる神の概念との共通性を考察する。とてもスリリングな知的エンタテインメントだ。
 そこに至るまでの各章では、認知科学や発達心理学による乳幼児観の変遷が、豊富な研究例の紹介とともに描かれている。かつて、何もできない受け身の無能な存在とされていた乳幼児は、20世紀後半の一連の研究により、その底知れぬ認知能力が次々と明らかにされた。生後数か月の赤ちゃんが足し算ができたり、合理的な推論をしていたり、自己認識や他者認知ができていたりするというものだ。
 これらは従来の「無能な乳幼児」観をくつがえす画期的な研究ばかりだが、著者はそこにある種の行き過ぎを見てとる。こんな小さな赤ちゃんが!というセンセーショナリズムが先に立つと、科学のあり方がよからぬ方向に進んでしまう。
 著者は、子供たちはそれぞれの年齢、それぞれの発達段階で必要とされるパフォーマンスをおこなう、大人とは異なる存在なのだと主張する。それが、彼自身のユニークな〈空想の友達〉研究の根っこにある。専門用語の頻出が気になるが、現代の発達心理学が描き出した、科学的な「〈子供〉の誕生」に拍手を送りたい。
    ◇
 新曜社・2592円/もりぐち・ゆうすけ 上越教育大准教授(発達心理学)。著書に『わたしを律するわたし』。

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