金城孝祐「教授と少女と錬金術師」書評 ギャグか耽美かフェチか?
ISBN: 9784087715507
発売⽇: 2014/02/05
サイズ: 20cm/180p
教授と少女と錬金術師 [著]金城孝祐
実に奇妙な読書体験だった。あらすじは、ちゃんとある。主人公は、油脂の研究を志す薬学部の大学院生。親戚が薬局をしていた店舗を借りて、調剤室で食用油を精製し、こっそり小金を稼いでいる。そこに指導教授から研究課題を押し付けられる。テーマはオメガ3脂肪酸と育毛。
しかし育毛の研究者であるはずの教授の頭部には、毛髪どころか毛根すら絶えて久しい。そして研究のヒントになるからと紹介された卒業生の先輩の頭部も、その照り輝きが悪魔的に美しく、誰もが愛さずにいられない禿頭(はげあたま)。
毛髪の研究はそっちのけで、つるつるぴかぴかを素敵(すてき)にすれば、育毛の必要はなくなるから究極の解放、といわんばかりにツルツルピカピカの魅力が書き連ねられる。
おや、天然油脂を素材にした化学コメディーなのかと思っていたのだが、笑うどころか、「完璧な禿の輝きの美学」を読まされるうち、洗脳され、一体どんな禿かと焦がれるように。なのに脳内で画像を結ぶことができない。質感だけは妙に具体的に、ああそのつやはアレだ!とわかるのに。
そしてこの物語は、どこに帰着したいのか。錬金術の現代解釈? それとも化学オタク青年の恋路? ゴスロリ少女愛? 油と水? 光と色彩? ギャグか耽美(たんび)かそれともフェチか。かっこいいのか悪いのか。
著者がこの話をどう読まれたいのか全くわからないのに、面白くて面白くて頁(ページ)をめくる手は止まらない。
気が付くと教授は頭から髪ではない謎の物体をにょろにょろ生やして光に包まれ……。え、ファンタジー?な展開のあとに訪れる唐突なラスト。まるですべての“ジャンル”に対して拒否と同時に求愛しているかのよう。
黒い栞(しおり)が3本ついた造本が、頼りなくも尊い残り毛に見えてきたら、ハマった証拠です。
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集英社・1296円/かねしろ・こうすけ 85年生まれ。武蔵野美術大大学院油絵コース修了。本作で、すばる文学賞。