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いちから聞きたい放射線のほんとう [著]菊池誠・小峰公子 [絵]おかざき真里/原発事故と放射線のリスク学 [著]中西準子

[評者]荻上チキ(「シノドス」編集長・評論家)

[掲載]2014年04月27日

[ジャンル]科学・生物

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■データを積み重ね、落としどころ提案

 東京電力福島第一原子力発電所における甚大な事故発生から3年が経過した。事故は大量の論点を放出し、私たちはそれぞれの立場に分断された。再稼働やエネルギー基本計画を巡っては、容認と反対のグラデーションの中でそれぞれの主張が続けられてきた。食の安全、居住基準、除染目標などについてもまた、それぞれの「見積もり」をめぐる衝突が生じてきた。
 現状を安全と捉えるのか。危険と捉えるのか。被曝(ひばく)への漠然とした考え方は、科学的な理解とはまた別に、各人の身体的な感覚と密接に結びつく。事故直後、聞きなれない言葉が氾濫(はんらん)する中、細かいことを知る前に、自分の立場を決断する必要に迫られた。あれから時間が経ち、様々なデータが集まってきた。地域ごとの線量、食品の線量、各地住人の被曝量など、被曝に関して議論する論拠が蓄積されてきた。「測って分かったこと」を元に、丁寧な議論をすることができるようになりつつある。
 そんな今、2冊の本が発売された。いずれも被曝をめぐる丁寧な議論が行われている。まずは『いちから聞きたい放射線のほんとう』。物理学者・菊池誠と福島県出身のミュージシャン・小峰公子との対話で構成されている。菊池が「原子とは何か」「ベクレルとシーベルトの違いは」といった基礎的な知識を解説。対して小峰が、生活上の不安を想定しながら質問をぶつける。「なんとなくの知識」や「耳なじみのいい言葉」で判断してきた人も、これを機会に頭を整理できるはず。読みやすく、ユーモラスで、誠実な1冊だ。
 次いで、中西準子『原発事故と放射線のリスク学』。放射線リスクについて考える基礎理論を説明し、データをまとめたうえで、議論に必要な推計を重ね、具体的な落としどころを提案している。
 中西は除染費用を1・8兆円以上と推計。一方で経済学者の飯田泰之との対談では、事故によって失われた被害総額を1・7兆円前後と推計。除染をすれば、被害額のうち1兆円程度は便益を回復できるが、除染費用から考えると赤字。町は事故前と同じ価値には戻らないが、「全員帰還」を目指す考え方もありうるし、何割かを個人賠償に回し、移住選択権の確保とのバランスを調整しなおすという考え方もある。「全員帰還」をあきらめ、見積額分を個人賠償にあてれば、1人2500万円。1家族では1億円前後ともなる。さて、どうするか。ほかにも論争的だが重要な議論が目白押し。中西の結論に同意できない人も、出された推計は参考になるはずだ。
 今に追いつくための菊池・小峰本。未来に踏み込むための中西本。あわせて読み終わると、あなたはもやの向こう側に立っている。
    ◇
 『いちから聞きたい放射線のほんとう』筑摩書房・1512円 きくち・まこと、こみね・こうこ、おかざき・まり(漫画家)。
 『原発事故と放射線のリスク学』日本評論社・1944円 なかにし・じゅんこ 38年、中国・大連生まれ。独立行政法人産業技術総合研究所フェロー。



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