書評・最新書評

MAKINO [編]高知新聞社

[評者]三浦しをん(作家)

[掲載]2014年04月27日

[ジャンル]科学・生物 ノンフィクション・評伝

表紙画像

■植物に愛と情熱を注いだ「天才」

 牧野富太郎は、生涯で40万点の植物標本を収集し、1500種類の植物を命名した、偉大な植物学者だ。彼が監修した植物図鑑は、細密でうつくしいカラー図版が魅力で、いまも愛用されている。「うちにもその図鑑ある!」というかたも多いだろう。
 本書は、牧野氏の業績と足跡のみならず、人柄を知ることもできる、「牧野愛」にあふれた好著だ。植物への愛と情熱が強すぎる牧野氏なので、「植物採集に出かけた利尻山であわや遭難」「死後、新聞紙に挟まれた膨大な植物標本をまえに、みんな途方に暮れる」など、周囲の人々を困惑させたエピソードにも事欠かない。植物に魅入られた牧野氏の、破天荒で嫌味(いやみ)のない、愛すべきキャラクターが非常によく伝わってくる。
 著者は、牧野氏の周辺人物にも丹念に取材し、牧野氏が行った土地にも足を運んでいる。その結果、本書は、「一人の天才をめぐる群像劇」かつ「旅行記」の趣もあって、読者を飽きさせないし、牧野氏の魅力を多面的に提示することに成功している。
 遺(のこ)された標本をコツコツと整理したかたの熱意。家族から見た晩年の牧野氏の姿(やっぱり庭の植物を観察している)。少年の日、牧野氏主催の植物採集会に参加したひとが語る、輝くような思い出。牧野氏は天才だけれど、「孤高のひと」ではなかったのだと思う。植物への愛を周囲に伝播(でんぱ)させ、周囲の人々の人生によき影響を与える情熱を持った、「愛される天才」だったのだ。
 「生まれつき植物に愛を持って来た(中略)その幸福を天に感謝している」と牧野氏は書く。本書を読んで、私は牧野氏がこの世に生を受け、研究に邁進(まいしん)されたことに感謝した。そのおかげで私たちは、図鑑を片手に身近な植物を愛(め)で、興味を持って接することができる。植物に生涯をかけた牧野氏の愛と情熱は、いまも生きつづけている。
    ◇
 北隆館・2376円/12年11月から13年5月までの新聞連載をまとめた。高知新聞社の竹内一記者が主に執筆。

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