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女のからだ フェミニズム以後 [著]荻野美穂

[評者]水無田気流(詩人・社会学者)

[掲載]2014年04月27日

[ジャンル]科学・生物 社会

表紙画像

■女性の自由と、産む性との相剋

 昨年、妊娠や出産の知識を広める目的で政府が導入を検討したものの、「余計なお世話」と散々な不評をもって終息した「女性手帳」問題は記憶に新しい。ライフスタイルの押し付けという批判はしごくまっとうだが、医学の観点からすれば加齢とともに妊娠しづらくなることは事実。根底には女性の自由や自己決定権と、産む性としての「からだ」の相剋(そうこく)が横たわっている。本書は、この厄介な問題に真正面から取り組んでいる。
 1960年代から70年代にかけ、「ウーマン・リブ」の語で広く知られるようになった第二波フェミニズムは、「女の健康運動」と総称される流れを派生させた。それまで男性が大半を占める医学専門家の管理下にあった女のからだを、女たち自身の手に取り戻すことを眼目とした運動である。とりわけ争点となったのは、中絶の是非をめぐる問題だ。リブが産む性である女のからだと中絶の権利にこだわったのは、母性賛美のためではなく、母性を女の「自然」として押し付けようとする社会の「母幻想」への反撃の意図からであった。それらは一定の成果をあげたが、今なお問題は山積している。
 筆者は問う。たしかに「女の健康運動」時代に比べれば、今の女性は自由になった。もっとも、からだを美しく飾り立てる情報は溢(あふ)れているが、生殖に関する正しい知識が浸透したとはいえず、摂食障害や自傷のようにからだとの折り合いのつかない女性は増加している。昨今女のからだをめぐる自由や解放の多くは医療テクノロジー依存により成立しているが、それらは市場経済と絡みつねに欲望が煽(あお)り立てられている。生殖技術は代理出産ビジネスを活性化し、サプリメントや美容整形など望ましいからだを追い求める市場も活況だ。何が本当の「女の利益」なのかが見えにくい現在だからこそ、歴史に学び、選択の糧としてほしい。
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 岩波新書・842円/おぎの・みほ 45年生まれ。3月まで同志社大学教授(ジェンダー史)。著書『生殖の政治学』など。

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