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東北を聴く 民謡の原点を訪ねて [著]佐々木幹郎

[評者]赤坂真理(作家)

[掲載]2014年05月04日

[ジャンル]ノンフィクション・評伝

表紙画像

■祈りの空間に耳を傾けてみる

 「がんばろう東北」。あなたは本当はそんなことが言いたいのだろうか? 言葉が見つからないだけではないだろうか? ならば、いっそ沈黙し、耳を傾けてみてはどうだろうか。東北に。東北が何を語りかけてくるかに。
 空元気を押し付けることで、豊かな機会を失っているのは、実は東北以外の人々ではないだろうか。
 本書は、津軽三味線の名人・二代目高橋竹山に密着し、東日本大震災の直後に、被災地の村々を行脚した、稀有(けう)なドキュメントである。初代竹山はほぼ全盲の男性で、昭和8年に東北を襲った大津波から、彼を先導した人の機転と手助けで生き延びた経験を持つ。機転とは、視覚障害者は草の原には足をとられるだろうから、藪(やぶ)の斜面を掴(つか)んで登る道を選んだことである。
 手助けした当の女性の語りがテープで残されているのを、著者たちが発見するシーンは圧巻である。そしてそこから流れ出す、方言の豊穣(ほうじょう)。そのままの起こしと訳があるので、ぜひ味わってほしい。それ自体、失われた唄のようである。じじつ明治期に、各地の方言は弾圧された。
 災害などとっさの時に、古い呪文などがよみがえるのも面白い。唄や伝承は生きられている。共同体の知恵を伝えるものでもある。そしてそれは、日本をも超えた広がりを感じさせるのである。
 また、彼らはまるで、現代の琵琶法師のようだ。滅んだ魂たちを慰め、生きている人に、知恵を伝えてゆく。願わくは、魂たちが安らかであるように。すべての人がその生を全うできるように。それは、古代からの祭りのようでもある。死者と生者が一緒になって唄い踊る空間。嬉(うれ)しいでなく、悲しいでもなく、強いてひとことで言うなら「泣き」に近い、そんな祈りの空間であると思う。
 現代日本が失ってしまったもの、それは、他ならぬ日本の中にある。
    ◇
 岩波新書・799円/ささき・みきろう 47年生まれ。詩人。詩集に『蜂蜜採り』『明日』、他に『中原中也』など。

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