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人口の世界史 [著]マッシモ・リヴィ‐バッチ

[評者]水野和夫(日本大学教授・経済学)

[掲載]2014年05月04日

[ジャンル]社会

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■繁栄、安定、安全に迫る危機

 人口の増減が経済・社会に与える影響を述べた書は数多(あまた)あるが、「人間の歴史を通して、人口は繁栄、安定、安全と同義だった」と書き出す本書は、人口増減の理由を根源的に問い、人口現象の「内的メカニズム」に迫る。
 出生率と死亡率の劇的変化は社会変容の反映である。ホモ・サピエンス(現生人類)の誕生以来、「人口の世界史」の大転換期が2度あった。
 最初は1万年前。新石器時代への移行期の「生産能力の劇的な拡大」による人口増だ。これは「バイオマス(ある空間に存在する生物の量)の制約」からの解放だった。狩猟採集生活から農耕生活へ移行し、定住という安定が出生率を上昇させ人口が増加した(死亡率も上昇)。
 第2は18世紀後半から欧州で起きた「人口転換」だ。産業革命により「土地供給と限られたエネルギー量(動植物・水・風といった)」から解き放されたことで、「不経済(多産多死)から節約へ」、「無秩序(子が親より先に死ぬ)から秩序へ」と移行し、経済は繁栄を極めた。
 ホッブズが「闘争状態」を終わらせるために1651年に著した『リヴァイアサン』の社会的影響は18世紀後半になってようやく表れ、ホイジンガが『中世の秋』で述べたように「新しい時代がはじまり、生への不安は、勇気と希望とに席をゆず」ったのだ。
 だが、その後先進国では出生力の「後戻りできない低下」が始まり、貧困国は人口増加が続く。本書は転換と収斂(しゅうれん)の過程が終了する将来の人口の潜在的増加率を「±1%」とみているが、既に出生した若年層の多さに負うところが大きい。「人類史はいま新たな歴史局面に入りつつあり、(略)現在の人口増加は危険な道路を疾走する車のようなもの」と著者は警告する。
 英歴史家ホブズボームは20世紀を「極端な時代」とみた。21世紀には、さらに予想のつかない未来が待つ。
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 速水融・斎藤修訳、東洋経済新報社・3024円/Massimo Livi−Bacci 36年生まれ。伊フィレンツェ大学名誉教授。

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