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地球温暖化論争―標的にされたホッケースティック曲線 [著]マイケル・E・マン

[評者]諸富徹(京都大学教授・経済学)

[掲載]2014年05月11日

[ジャンル]アート・ファッション・芸能 科学・生物

表紙画像

■産業界との「戦争」、科学者の告発の書

 本書は、「クライメートゲート事件」に巻き込まれた気候学者により、憤りをもって書かれた告発の書である。著者は、ペンシルベニア州立大学気象学教授で、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)報告書の科学的知見に大きな貢献を行ってきた。
 著者の専門は、古気候学である。樹木の年輪、氷床コア、サンゴなど、自然界に刻まれた過去数世紀の気候の痕跡を示す代替データを取り出し、主成分分析という統計手法を用いて、過去の気候変動パターンを再現する。20世紀に入ると測温データが豊富に入手できるので、それで統計モデルの信頼性をテストし、その精緻(せいち)化を図ることで説明力を高める。
 この方法で著者は、過去千年間の北半球の気候を再現することに成功した。結果、1990年代が、過去千年間で最も温暖な10年だったことが明らかになった。これを図示すると、20世紀以降に気温トレンドが急上昇するため、その形状から「ホッケースティック曲線」と名づけられた。
 人為的要因による温暖化という結果は、温暖化否定論者をいたく刺激し、批判の標的となった。それが最高潮に達したのが、コペンハーゲン気候変動枠組み条約締約国会議直前の2009年11月に起きたクライメートゲート事件だ。気候研究の世界的拠点である英国イーストアングリア大学気候研究所のサーバーから1千通以上のメールが盗み出され、公開された。
 否定論者は、ジョーンズ所長が著者らに宛てたメールの中に「(気温の)下降を隠す」、「トリック」という言葉があるのを発見、彼らによる陰謀の証拠だと喧伝(けんでん)した。主要メディアはこれに乗って温暖化懐疑論を一挙に広め、IPCCの権威を貶(おとし)め、著者自身も身の危険を感じるほどの脅迫を受けた。
 だが著者はすぐに、これは「戦争」だと気づく。背後では化石燃料産業など産業界の資金提供を受けた財団が暗躍、シンクタンク、メディアと連携しつつ組織的に中傷キャンペーンを張って、科学に打撃を与えようとしていた。その最終目標は、オバマ政権による排出量取引制度導入の阻止だった。
 ところが結局、本件に関する全ての公的な調査結果で、関係者に不正はなく、イーストアングリア大の分析結果も正しかったことが判明した。対照的に、著者を攻撃したウェグマン報告書は盗用、剽窃(ひょうせつ)、統計の恣意(しい)的操作が明るみに出て自壊、潮目は変わった。
 本書は、暴風雨を潜(くぐ)り抜けた著者による、新たな闘いへの決意表明で結ばれる。来年にかけて、重要な気候変動政策決定上の節目を控えるいま、再び世界は前進を始める時だという本書の強いメッセージを、正面から受け止めたい。
    ◇
 藤倉良、桂井太郎訳・化学同人・4860円/Michael E.Mann ペンシルベニア州立大学教授(気象学)。IPCC第3次評価報告書の「観測される気候の変動と変化」の章の代表執筆者。

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