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哲学入門 [著]戸田山和久

[評者]佐々木敦(批評家・早稲田大学教授)

[掲載]2014年05月11日

[ジャンル]人文

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■「文学」に背向け「科学」と歩む

 何のヒネリもない直球の題名に思えるが、読み始めてすぐ、この「哲学」と「入門」の二語の合体には、きわめて野心的かつ挑発的な意味が込められていることを知らされる。
 著者は本書には「歴史上有名な哲学者」がほとんど出てこないと述べ、ミリカン、ドレツキ、ペレブームといった、耳慣れない哲学者の名前を挙げる。そして、この本が、「科学の成果を正面から受け止め、科学的世界像のただなかで人間とは何かを考える哲学」の「入門」であると宣言する。「科学的世界像」とは別の言葉で言えば「物理主義/自然主義/唯物論」だが、著者はこれを「モノだけ世界観」と言い換え、右の意味での「哲学(者)」にとっては「存在もどきをモノだけ世界観に描き込む」ことが課題であると言う。では「存在もどき」とは何か。それは「ありそでなさそでやっぱりあるもの」、たとえば「意味」「機能」「情報」「表象」「目的」「自由」「道徳」、そして「人生の意味」である。いずれも「哲学」が問題にしてきた概念と言っていいだろう。
 先ほどの課題を逆に言えば、「モノだけ世界観」によって「存在もどき」を説明することが、本書のミッションである。「哲学」や「現代思想」について何となく共有されている、高尚で抽象的なテーマを特殊な言葉遣いを駆使して延々と云々(うんぬん)する、といったイメージに挑戦している。従来の「哲学」はともすれば「文学」に接近するが、そちらの方向には敢然と背を向け、日進月歩の「科学」の達成と歩を同じくしようとする「哲学」。そして著者は、これこそが本物の「哲学」だと言うのである。
 分析哲学、認知科学、進化論などの先端的な知見を武器に、著者は「存在もどき」に次々と挑んでゆく。必ずしも読み易(やす)くはないし、個々の論証の成功の度合いにかんしては意見が分かれるかもしれない。だが、まずはこのすこぶるユニークな『哲学入門』の登場を言祝(ことほ)ぎたい。
    ◇
 ちくま新書・1080円/とだやま・かずひさ 58年生まれ。名古屋大学教授(科学哲学)。『科学哲学の冒険』など。


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