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学生との対話 [講義]小林秀雄 [編]国民文化研究会・新潮社

[評者]水無田気流(詩人・社会学者)

[掲載]2014年05月18日

[ジャンル]人文

表紙画像

■臨場感と熱気あふれる話し言葉

 生前、小林秀雄は口話の録音を許可しなかった。講演原稿も推敲(すいこう)を重ね、書き言葉へと変換してから公表した。それゆえ、本書は明らかに小林の意図に反した作品だろう。実際、もし知られたら小林の逆鱗(げきりん)に触れることを覚悟の上、こっそりとテープは回されたという。だが、いやだからこそというべきか。不思議な臨場感と熱気に溢(あふ)れた、稀有(けう)な言行記録となっている。
 「対話」との表題通り、本書の大部分を占めるのは学生との生きた対話だ。昭和36年から53年にかけ、計5回行われた講演には、全国60余の大学から集まった大学生らが300〜400名集い、聴き、質問した。その様は、まさに小林自身が意識したソクラテスの対話法である。学生たちも、講義や小林の著作の内容はもとより、時に「戦後民主主義」や「現在の教育制度」といった大きな問題への問いが出るかと思えば、学生自身の不安や焦り、人生の指針を求める質問までさまざま。それらに対し、小林は安易な回答をよしとせず、問うことそれ自体の意味を、学生自身の思考力に訴え、問い直していく。
 「本当にうまく質問することができたら、もう答えは要らないのですよ」とは、講義「信ずることと考えること」の後で語った言葉である。「僕ら人間の分際で、この難しい人生に向かって、答えを出すこと、解決を与えることはおそらくできない。ただ、正しく訊(き)くことはできる」と。質問するとは答えを求める以上に自分で考えることが重要である。考えるとは、本居宣長によれば「か身交(むか)ふ」、つまり、〈自分が身をもって相手と交わる〉ことであり、人間を考えるときには、その人の身になってみるだけの想像力が要る……。この明快な言葉は、書き言葉の小林秀雄とは人格ならぬ筆格が異なるが、魂は等しく読む者に語りかけてくる。学問や知識の細分化が進む今だからこそ、ぜひ一読されたい。
    ◇
 新潮社・1404円/こばやし・ひでお 1902〜83年。評論家。著書『ゴッホの手紙』『本居宣長』など。



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