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身の丈の経済論―ガンディー思想とその系譜 [著]石井一也

[評者]諸富徹(京都大学教授・経済学)

[掲載]2014年05月18日

[ジャンル]経済

表紙画像

■21世紀を展望する思想的源泉

 本書は、インド独立の父ガンディーによる経済思想の解明を通じて現代文明の再考を迫る、問題提起の書である。
 ガンディーの経済思想は、近代化、工業化への根底的な批判と特徴づけられる。彼は、西欧の機械化・工業化がインド経済の独立を奪い、貧困化をもたらしたと批判する。他方で、非暴力の観点から社会主義・共産主義を否定し、インド初代首相のネルーが推進した社会主義的工業化に反対の立場を明確にする。
 こうした反近代ともいえる姿勢は、同じインドの知識人タゴールやアマルティア・センらの批判を招く。だが著者は、ガンディー思想を単なる反近代ではなく、人々が連帯しつつ、適正技術を生かして環境と共生するオルターナティブな経済システムを目指すものと積極的に評価する。
 その具体論として、「チャルカー(手紡ぎ車)運動」と「受託者制度理論」がある。前者は、当時のインド綿布市場を席巻していた機械製製品に対抗し、手織りの綿布生産による協同組合的社会の構築を通じて、貧者救済を図る運動である。これはあえて、非効率的だが簡素な生産手段を用いることで、貧者が生産に参加し、所得をえるシステムだ。
 これが生産の理論だとすれば、受託者制度理論は分配の理論であり、富者が神から信託を受け、その財産を貧者のために、自発的に用いるという考え方である。左派からは、階級闘争や財産国有化を回避する体制擁護論だとの批判を受けたが、ガンディーにとっては経済的非暴力主義こそが、譲れない根幹だったのだ。
 こうしたガンディーの経済思想は、「スモール・イズ・ビューティフル」で有名なシューマッハーに影響を与え、経済システムと生態系の共存を説く「定常経済論」にもつながっていく。その意味で彼の思想は、21世紀のオルターナティブな経済システムを展望する思想的源泉として、改めて再評価されるべきだろう。
    ◇
 法政大学出版局・4104円/いしい・かずや 64年生まれ。香川大学教授(経済学)。



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