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ドレス・アフター・ドレス―クローゼットから始まる冒険 [著]中村和恵

[評者]内澤旬子(文筆家・イラストレーター)

[掲載]2014年05月25日

[ジャンル]アート・ファッション・芸能

表紙画像

■素敵で深い「着ること」の裏側

 何を着るか。ずっと考え続けてきた。うきうき楽しく選んだり、何を着ていいのかわからなくて深刻に迷ったり。服が大好きで、憎い。
 纏(まと)うことの楽しさと不自由さはどこから来るのか。ファッション誌や服飾に関する本を渉猟しても、物足りない。流行の着こなしもスタイリング術もいいけれど、服はもっと広く、いつでもどこでも愛され、着用されてきたはず。
 そんな想(おも)いをようやく存分に共有できたエッセイが本書である。小説の描写から二十世紀初頭のヨーロッパの都市で働く若い女性の服飾事情に思いを馳(は)せたかと思うと、北方狩猟民の鮭革(さけがわ)でできた衣の素敵(すてき)な風合いに触れ、カナダのビーバー乱獲と環境保護運動の経緯から毛皮との付き合いを考察する。日本の着物も登場。古今東西南北、博物館や書物からオーダーメードショップまで、被服があるところどこでも軽々と、漂着する。かっこいい。
 もちろん単にあれが素敵これが素敵だけでは終わらせない。比較文学者でもある著者の語学力と知識が旺盛な好奇心をしっかりと支え、服の裏側に潜む歴史や心理、女性性や社会問題にまで行き着く。
 着ることは、自分が何者であるかを自分以外の他者、社会に表明することでもある。
 フランスの公立学校で問題になったムスリム女子生徒のスカーフ着用については、少女たちが現代フランスとイスラム系移民居住区との二つの文化の視線に対抗する二重戦略と読み解き、どちらに帰属するかではなく、どちらも彼女らの一部なのだと説く。
 服が規定しようとする体形も然(しか)り。巻末では身体に話が及ぶ。「痩身(そうしん)」という単一の文化的価値観を崇(あが)めるよりも、たくさんの種類のきれいやかわいいや美しいがあったほうが、いい。しかもそういう視点は練習で獲得できるものだから、やってみて、と誘いかける。同感。きっとそのほうが楽しい世界になる。
    ◇
 平凡社・1728円/なかむら・かずえ 66年生まれ、明治大教授(比較文学・比較文化など)。『地上の飯』など。

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