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初音ミクはなぜ世界を変えたのか? [著]柴那典

[評者]佐々木敦(批評家・早稲田大学教授)

[掲載]2014年05月25日

[ジャンル]IT・コンピューター 社会

表紙画像

■「音楽」再生のための新たな革命

 音声合成ソフトウエア「ボーカロイド」の一種として生まれながら、ネット上の不特定多数のユーザー(ボカロPと呼ばれる)に育まれることで、姿かたちを与えられ、幾つもの名曲を歌い、やがてネットを飛び出して様々に活躍し始め、気付けば一種の社会現象を巻き起こしていた「初音ミク」。本書はその誕生から現在に至る歴史を、ミクの開発者や有名ボカロPたちへの取材によって繙(ひもと)きつつ、ひとつの大胆な主張を行っている。それは、ミクが登場した(発売された)二〇〇七年から起こった出来事は、史上三度目の「サマー・オブ・ラブ」だった、というものである。
 六〇年代末、アメリカ西海岸で、ヒッピーイズムを背景にして勃興した若者文化のムーブメント、それは「サマー・オブ・ラブ(愛の夏)」と呼ばれた。六九年のウッドストック・フェスティバルが、その頂点だった。それから二十年後の八〇年代末、イギリスで「セカンド・サマー・オブ・ラブ」が起こる。それは大規模野外フェスを中心に、当時注目されていたテクノやハウスなどのクラブ・ミュージックと、一部の人気ロック・バンドによって形成されたブームを、かつての「愛の夏」の再来として名付けたものだった。そして本書の著者は、それから更に二十年後の「初音ミク現象」を、三度目の「愛の夏」として捉えようとしている。つまりこれは、一種の紛れもない革命なのだと。瀕死(ひんし)の「音楽」の新たなる再生、そして文化の「未来」が、ここに芽吹いているのだと。
 「初音ミクは世界を変えるか?」ではなく、既に「なぜ世界を変えたのか?」になっているところに、著者のスタンスが窺(うかが)える。むろん、賛否はあることだろう。だが、ミクが「愛の夏」のヒロインであるのかどうかは、実はどうでもいいことなのかもしれない。問題は、世界が本当に変わったのか、いや、変わるのかどうか、であるのだから。
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 太田出版・1728円/しば・とものり 76年生まれ。ライター、音楽ジャーナリスト。「ナタリー」などに執筆。

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