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スノーデンファイル [著]ルーク・ハーディング / 暴露 [著]グレン・グリーンウォルド

[評者]島田雅彦(作家・法政大学教授)

[掲載]2014年06月08日

[ジャンル]政治 社会

表紙画像

■自由の国揺るがす、諜報機関の暴走

 諜報(ちょうほう)機関員のイメージは中年女たらしのジェームズ・ボンドや引退間際の英国紳士スマイリーに代表されてきたが、エージェントの主な活躍舞台がIT世界になった今日は、エドワード・スノーデンによってこそ、代表されるのかもしれない。
 その人物像は、評伝的要素が盛り込まれた『スノーデンファイル』に詳しく描かれている通り、痩せぎすで、髭(ひげ)が似合わない童顔で、ITスキルの高い、大雑把には「おたく」と分類される内気な青年である。さらにその思想的背景を追えば、小さな政府と個人主義の徹底を主張する共和党リバタリアン支持者である。日本の米軍基地にも勤務したスノーデンは国家安全保障局(NSA)の極秘情報を閲覧できるIT管理部門に籍を置き、その行き過ぎた情報の専横に違和感を覚え、逮捕されることを覚悟の上で内部告発に打って出た。
 暴露された最高機密の一部はスノーデンの最初の接触者であるジャーナリスト、グリーンウォルドの『暴露』に公開されている。
 NSAはサーバー各社、電話会社など一般企業をも傘下に置き、友好国の政治家や一般人のプライバシーをも完全に掌握することで、アメリカのみならず世界をその支配下に置こうとするまで暴走した。9・11以降のテロ対策という大義を最大限に拡大し、情報の透明性を高めることを公約に掲げたオバマの政権になってからも、さらにNSAは情報の占有を極めた。なぜそんなことをしたのかに対する前共和党大統領候補のマケインの私見が笑える。「できるからしたのだろう」
 日本でもつい先ごろ、アメリカと安全保障上対等になりたいがためか、「国家安全保障局」を中核とする国家安全保障会議が発足し、秘密保護法に基づき、情報の秘匿に本腰を入れ始めた。
 国家や企業の不正を内部告発する者が一人もいない世界……それはほとんど北朝鮮か、中国であるが、それらの国家を批判するアメリカや日本は内部告発者が正義を発揮しやすいわけでもない。逆にいえば、スノーデンや彼に協力したジャーナリストたちがいたからこそ、辛うじてアメリカにおける報道の自由、あるいは国家の専横に個人が対抗しうる自由を行使できたわけである。
 冷戦時代に旧ソ連からの亡命者を保護していた「自由の国」アメリカは、冷戦構造の終焉(しゅうえん)が宣言されてから二十年後、検閲や盗聴により、国民を監視下に置く全体主義の国に成り果てた。そのアメリカから追われる身になったスノーデンの亡命を認めたのがロシアだったというのは何という皮肉か。
 冷戦は終わっていなかった。ただ、目立たなかっただけだ。
    ◇
 『スノーデン…』三木俊哉訳、日経BP社・1944円/Luke Harding 「ガーディアン」海外特派員。
 『暴露』田口俊樹ほか訳、新潮社・1836円/Glenn Greenwald ジャーナリスト。報道サイト「インターセプト」を今年設立。


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