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ペンギンが教えてくれた物理のはなし [著]渡辺佑基

[評者]佐倉統(東京大学大学院情報学環長・科学技術社会論)

[掲載]2014年06月22日

[ジャンル]科学・生物

表紙画像

■動物に発信器つけ、生活の実態さぐる

 バイオロギングを知っていますか? 動物に小型の発信器を装着し、その行動を記録する研究分野だ。渡り鳥の長距離移動や魚の潜水など、今までデータが取りにくかった行動について、正確で詳細な実態が明らかになりつつある。特に近年、発信装置が格段に進歩したため、ワクワクするような結果が続々と明らかになってきた。たとえば、ハイイロミズナギドリの渡り移動は6万5千キロに及び、クロマグロは8千キロ泳いで太平洋を横断し、アカウミガメは10時間も水に潜っている!
 このようなワクワクをぎゅーっと凝縮し、あふれんばかりに詰め込んだのが、この本だ。表紙から裏表紙に至るまで、科学のおもしろさに満ち満ちて、あふれている。
 著者はバイオロギングの専門家。あるときはウ(鵜)の飛行の研究でインド洋の真ん中の孤島に、あるときはペンギンの生態を調べに極寒の南極に、またあるときは常夏のバハマでサメの調査と、動物の生活実態を知るために、地球上どこにでも出掛けていく。
 フィールドでの苦労も並大抵ではない。高価な測定器の回収に失敗したり、自分の話せないフランス語ばかりしゃべるチームの中で4カ月間の孤独に耐えたり。
 だけど、それらを通して得られた成果の、おもしろいことったりゃ、ありゃしない。マンボウとペンギンの泳ぐメカニズムは基本、同じであるなんて、こういう調査をしなければ分かりっこない。
 書き手が、心の底から研究を楽しんでいる。それが読み手のぼくたちにもガンガン伝わってくるので、こっちまでうれしくなってしまう。勇猛果敢ですがすがしい科学精神の発露。
 とはいえ、単に好奇心のおもむくままに突き進むだけではない。冷静で沈着な計算もきちんと働いている。とくに素晴らしいのは、自分の研究を先人たちの業績との関係の中に明確に位置づけていることだ。研究分野全体における自分の立ち位置が、はっきりと認識できている。学問領域の全体像が分かるから、この本はおもしろい。
 著者は英文の原著論文を一流の専門誌に多数発表している優秀な研究者だが、その彼が、このような一般向けの本を書いてくれたことに、一読者として感謝したい。
 研究者は、多忙だ。一般向けの著作は後回しになりがちである。だけど、科学の喜びは、専門家にこだわらずできるだけ多くの人と分かち合い、楽しむものだとぼくは思う。そうしないともったいない。この本が体現しているのは、まさにそういった喜びである。
 口絵には珍しい動物の写真が載っているが、ちょっと小さい。この著者の、写真を中心にした読み物なども読んでみたいものだ。
    ◇
 河出ブックス・1512円/わたなべ・ゆうき 78年生まれ。国立極地研究所生物圏研究グループ助教。2007年、東京大学総長賞。10年、南極観測隊に参加し、ペンギン目線のビデオ撮影に成功。11年、学術分野で優れた実績を上げた研究者に贈られる山崎賞を受賞。

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