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孤高の守護神 ゴールキーパー進化論 [著]ジョナサン・ウィルソン/マラカナンの悲劇 [著]沢田啓明

[評者]荻上チキ(「シノドス」編集長・評論家)

[掲載]2014年06月22日

[ジャンル]ノンフィクション・評伝

表紙画像

■W杯、深く楽しむための2冊

 まったくもって寝不足である。地球の裏側で開催されているW杯のせいだ。そんな今、熱狂の起源をたどるような2冊の本を紹介したい。試合の合間に読むと、サッカーへの理解が深まるだろう。
 『孤高の守護神 ゴールキーパー進化論』は、タイトルの通りキーパーの役割がこの150年でどう変遷してきたのかをまとめた大著。同著によれば、黎明期(れいめいき)のサッカーには、キーパーそのものが存在しなかった。キーパー導入後も、そのポジションは絶対的に不人気だった。下手なプレーヤーが罰ゲームとしてゴール前に置かれるような有り様で、キーパーになりたがる者は変人扱いされた。ダイビングもせず、チームメートへの指示だしもしない。その役割は、極めて限定的だった。
 今ではキーパーには、多くの能力が求められるようになっている。だが、国によってもキーパーの意味づけは異なると同著は言う。ブラジルでキーパーがスケープゴートになりやすいという指摘は、なるほどと思いつつ同情を禁じ得ない。日本のキーパー論については触れられていないが、日本版を誰かが受け継いでもよさそうだ。
 今大会では、しばしば「マラカナンの悲劇」というフレーズが使われる。1950年のブラジルW杯、初優勝をかけて臨んだ決勝戦において、ブラジルはまさかの逆転負けを喫した。この経験が、ブラジルにおける大きなトラウマになっているというわけだ。 『マラカナンの悲劇』では、W杯に至るまでの過程、当日の試合展開、優勝国ウルグアイによる「マラカナンの奇跡」の受け止め方などが丁寧に解きほぐされていく。今大会でブラジルは悲劇を乗り越えられるのか。まあ、決勝に行く段階で既に「奇跡」なので、なんてぜいたくなんだ、とも思ったり。両著とも、画像や動画での検証が困難な時代のプレーを、資料や証言を収集して活写した力作。
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 『孤高の守護神』実川元子訳、白水社・3024円▽『マラカナンの悲劇』新潮社・1620円/さわだ・ひろあき


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