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ラスト・バタリオン―蒋介石と日本軍人たち [著]野嶋剛

[評者]保阪正康(ノンフィクション作家)

[掲載]2014年06月29日

[ジャンル]歴史

表紙画像

■国民党が求めた「技術と体験」
 
 歴史には裏表がある。表の史実の陰には屈折した人間の息吹がある。本書を評するのにそのような表現が的確か否かは別にして、この見えざる部分を表に引きだした著者の取材力にまずは感嘆すべきであろう。
 日中戦争下、いわゆる侵略軍の日本軍が、敗戦後に「その技術と体験」を国民党の総帥である蒋介石に密(ひそ)かに求められる。むろん共産党との内戦に勝利するためだが、そこで支那派遣軍総司令官だった岡村寧次(やすじ)と蒋介石との間にどのような密約、駆け引きがあったかを本書は丁寧に明かしていく。とくに戦犯裁判で岡村を無罪とするそのプロセスや、当の岡村がのちに無罪の理由を中国側がつけた弁護士の優秀さに結びつける「とぼけぶり」などは、この間の事情に興味を持つ者には鋭い指摘だ。
 岡村を指導者として日本軍の中堅、高級将校が国民党を支援するために密かに内戦下の重慶に送られる。敗戦によって解体された日本軍の生き残りの「最後の部隊(ラスト・バタリオン)」として、白団(バイダン)と名のったこれら将校たちはどのような役割を果たしたのか、著者は多くの資料や証言を読者に提示する。蒋介石の日本軍への感情を、彼の「日記」を引用しつつ分析する。白団を政治的に使いこなそうとするその思惑を歴史に刻みこむ。
 白団にかかわった旧日本軍将校は、蒋介石の台湾への撤退に同行する形になり、台湾内に模範的な師団をつくるための教官役も果たす。個々の白団の日本人将校の日記、証言に日中戦争の影を感じ、驚く。同時に、戦後社会にあってGHQ(連合国軍総司令部)にとりいった情報工作の服部機関が、白団に巧妙に近づいていたことなど、知られざる事実も伝えられる。
 著者の筆は多岐にわたるのだが、こうした日本軍人の無責任さという側面も掘りさげるべきだとの感がする。
    ◇
 講談社・2700円/のじま・つよし 68年生まれ。92年、朝日新聞社入社。台北支局長などを経て「アエラ」編集部。

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