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民主政治はなぜ「大統領制化」するのか―現代民主主義国家の比較研究 [著]T・ポグントケ [編]P・ウェブ

[評者]柄谷行人(哲学者)

[掲載]2014年06月29日

[ジャンル]政治

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■政党よりリーダー、個人的人気に傾く

 本書の編著者らは、現行の議会制民主主義では「大統領制化」という現象が生じると主張する。簡単にいうと、それは、行政府の長(首相ないし大統領)が、議会(立法府)による制約から自立すること、また、政党が弱体化し、選挙過程が政党ではなくリーダー個人の人気に左右されるようになる、ということである。ちなみに「大統領制化」は、たんに議院内閣制においてだけ生じるのではない。大統領制があるところでも同じである。たとえば、米国では、大統領は議会や支持母体の政党に規制されてきたが、レーガン以来、政党はもはや大統領を選出したり規制する力をもたない。その意味で「大統領制化」したわけである。
 編著者らは「大統領制化」という仮説を、各国での共同研究によって裏づけようとした。その調査の範囲は、ヨーロッパ諸国、さらに、カナダ・アメリカ・イスラエルなどに限られている。だが、多くの点で、これは日本にも当てはまる。たとえば、1993年に衆議院議員に転じた細川護熙は、個人的な人気によって首相となった。また、選挙法の改革によって、それまで強固に存在した自民党と社会党という政党の体制を解体してしまった。以後、政党は以前のような強さをもたなくなり、リーダーの個人的な人気が中心となった。「自民党をぶっ壊す」と叫んだ首相、小泉純一郎がその典型である。彼はその言動において、それまでの日本のどんな政治家よりむしろ、レーガン(米国)、ベルルスコーニ(イタリア)、サルコジ(フランス)のような政治家に似ていた。では、なぜ彼らは似ているのか。また、この類似性には、いったいどういう意味があるのか。「大統領制化」という観点から見ることによって、それを理解する糸口が見いだせるだろう。
 本書の編著者らは、「大統領制化」の原因を、つぎのような点に見ている。人々の階級帰属意識が薄れ、政党への組織の関与が弱まり、大きな変革をめざす政治的代替案が信用を失い、諸政党が互いに似通ったものとなった。有権者にとって、リーダーの人格にしか判断の手がかりがない。他に、政治の国際化、マスメディアの変化などが原因とされる。
 しかし、それだけでは不十分である。「民主政治」はなぜ「大統領制化」するのか。それは代表制民主主義そのものに内在する問題ではないか。かつて、戦争や経済危機の際に、リーダー(ボナパルト、ヒトラー、近衛、ローズベルト)に権力が集中される事態があった。現在の現象はそれらと異なる。では、なぜ、いかに異なるのか。それを考えるためにも、ひとまず本書が提示した仮説を受け止める必要がある。
    ◇
 岩崎正洋監訳、ミネルヴァ書房・8640円/Thomas Poguntke 独デュッセルドルフ大学教授(比較政治学) Paul Webb 英サセックス大学教授(政治学)。本書は北米・欧・イスラエルの18人の研究者による共同執筆。

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