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好奇心の赴くままに——ドーキンス自伝1——私が科学者になるまで [著]リチャード・ドーキンス

[評者]佐倉統(東京大学大学院情報学環長・科学技術社会論)

[掲載]2014年07月13日

[ジャンル]科学・生物 社会

表紙画像

■自然に誕生した『利己的な遺伝子』

 ドーキンスは、世界の見方を変えた人である。彼の退官記念論文集の副題は、「ひとりの科学者が私たちの思考様式をどのように変えたか」という。優秀な科学者は大勢いるが、世界観を変えることができた人は、そう多くない。
 1976年、当時35歳の彼は、動物の社会行動の進化に関する入門書、『利己的な遺伝子』を出版した。そして、生物の進化と生物そのものに関する見方を一変した。進化は遺伝子が自己の複製をたくさん残すように進むものであり、その根本は遺伝情報の振る舞いとみなされるようになった。巧みなレトリックと華麗な文体のおかげもあって、彼の著作は生物学以外の分野でも幅広く読まれ、以後、社会全般に大きな影響を与え続けて今日に至っている。
 この自伝は、そんな知的革命の仕掛け人が、マニフェストたる『利己的な遺伝子』を出版するまでを回顧したものである。
 世界を変える書物がどのようにしてできたのかは、むしろ、自然に誕生したような様相を呈している。彼が所属していたオックスフォード大学の研究室は、当時の進化生物学研究の結節点に位置していた。ドーキンスは学生への講義の準備などを通して、その編集能力とコピーライター能力を遺憾なく発揮し、耳に入ってくるさまざまな研究のエッセンスを凝縮したのである。それが『利己的な遺伝子』となっただけのこと——この本からは、そんな風に読める。
 幼少期から、哲学的な志向と言葉に対する鋭敏な感覚を発揮していたというのも興味深い。後の理論家肌の名文家、栴檀(せんだん)は双葉より芳(かんば)し。
 しかし、大学以前の学校の成績はぱっとしないものだった。それを開花させたのもまた、個人指導を重視するオックスフォード大学という、知識涵養(かんよう)の場であった。
 知の革命は一日にして成らず。心しよう。
    ◇
 垂水雄二訳、早川書房・3024円/Richard Dawkins 41年生まれ。英国の生物学者。本書は2部作の第1部。

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