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ナショナリズム入門 [著]植村和秀

[評者]吉岡桂子(本社編集委員)

[掲載]2014年07月13日

[ジャンル]政治 社会

表紙画像

■どううまれ、歴史に作用したか

 「愛国無罪」を叫ぶ反日デモを中国で幾度か取材し、政治が重用するナショナリズムを目の当たりにした。日本に戻ってみると、書店に「反中嫌韓」棚と「日本ってすごい」本が、増殖している。
 私自身も、サッカーのワールドカップ観戦ならいざ知らず、「国」をやどかりに考えたり、気持ちが動いたりする機会がなんとなく増えていないだろうか。争いの種として耳にすることが多いナショナリズムってなんだろう——。
 この本では、国家、国民、民族などの意味をもつ「ネイション」にたいする肯定的なこだわり、と説明する。正義でもないが、悪でもない、と。そして、どううまれ、歴史に作用したかについて、各国の例をあげて示している。
 戦争などによって地理的な国の形や統治者が変わるとき、国力が大きく動くとき、移民に触れるとき……。日本を出発点に、ドイツを始めとする欧州を厚めに紹介し、米国、ロシア、トルコ、アラブへと地球儀を回す。そのうえで、中国、朝鮮半島へと戻ることで、東アジアの現在地が相対化されていくようだ。
 ナショナリズムには、季節があると言う。
 近代化が中途半端な時期こそ、盛り上がる。強大化した実感はあっても、自分の生活は、それほどでもない。力強さと一体性へのこだわりが強くなり、「ネイション」にすがって暮らしをよくしてもらおうと期待する。
 その意味で、日本の昭和の戦前期に似る現在の中国は旬にある、と指摘する。これに対して、日本の場合は「失われたプライドや何とも言えない心細さへの補償」を期待して膨らんでいるのではないか、と感じた。双方の「期待」を、権力がまとう。
 著者が「エゴイズムを破局に転じさせない決意も仕組みもない」と心配する東アジアで、ナショナリズムを前向きにいかす知恵は何か。考える入り口にいざなう一冊だ。
    ◇
 講談社現代新書・907円/うえむら・かずひで 66年生まれ。京都産業大学教授(ナショナリズム論・政治思想史)。

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