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「AIDで生まれるということ」書評 父親わからず苦悩する子ども

評者: 荻上チキ / 朝⽇新聞掲載:2014年07月13日
AIDで生まれるということ 精子提供で生まれた子どもたちの声 AID=非配偶者間人工授精 著者:非配偶者間人工授精で生まれた人の自助グループ 出版社:萬書房 ジャンル:暮らし・実用

ISBN: 9784907961008
発売⽇:
サイズ: 19cm/205p

AIDで生まれるということ [編著]非配偶者間人工授精で生まれた人の自助グループ・長沖暁子

 AID=非配偶者間人工授精(夫以外の第三者から提供された精子を用いた人工授精)で生まれた者たちが、その事実を知らされてからの苦悩を語り合う貴重な一冊。
 複数の当事者が、「出自を知る権利」が確保されないために、遺伝性疾患への気構えができないことや、遺伝上のルーツをたどれぬことの不安感などを口にし、さらに自分たちの声を社会が無視し続けたことへの批判をつづる。苦悩を周囲に理解されないつらさも重い。不妊問題が、出産した時点で「決着」するわけではないことが分かる。
 本書の外側にはまた、親による「産んで以降の苦悩の声」や「自己正当化のための物語」もあろう。不妊に悩む当事者の声に耳を傾けるべきだという意見はよく耳にするが、社会が結局、「産ませる」までにしか関心を払わないなら、新たな問題を放置することになる。技術の倫理的意味と必要なケアについて、しっかりと議題が共有されなくては。
    ◇
 萬書房・1944円