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短編を七つ、書いた順/ミッキーは谷中で六時三十分 [著]片岡義男

[評者]佐々木敦(批評家・早稲田大学教授)

[掲載]2014年07月20日

[ジャンル]文芸

表紙画像

■人生の一場面、鮮やかに切り取る

 片岡義男の筆にかかると、東京は、まるで外国の都市みたいに見えてくる。登場人物は皆、几帳面(きちょうめん)に姓と名を持たされており、女性の多くは下の呼び名がカタカナで、男たちは作家か編集者か俳優、女性の職業のバリエーションは多彩だ。彼ら彼女らの人生の一場面、連続しているような、そうでもないような出来事たちが、字義通りの意味でハードボイルド的というべき筆致で、鮮やかに切り取られる。
 『短編を七つ、書いた順』は「作家生活40周年書き下ろし」。「せっかくですもの」では、二十八歳で実家に戻った「宮崎恵理子」が、二年後に就職が決まって再び家を出る準備をしていた或(あ)る日、最寄り駅のドトールと駅の改札で二度、父親と出くわす。二度の偶然の間に彼女は友人の「倉本香織」とスペイン料理を食べ、二人で新居を見に行き、電車を乗り継いで帰ってくる。題名は、そのまま父と家には戻らずに寄った店で、バーテンダーが彼女に言う一言だ。「なぜ抱いてくれなかったの」は、五十三歳で独身、作家の「三輪紀彦」が、高校時代のクラスメイトの「中条美砂子」と再会する。卒業後一度だけ二人はデートをした。彼女はその後、女剣劇の世界に入り、引退後の今は喫茶店を営んでいる。題名は彼女が彼に言う台詞(せりふ)である。彼が返答を思いついたところで、小説は終わる。
 『ミッキーは谷中で六時三十分』の表題作は、二十八歳独身でフリーライターの「柴田耕平」が、偶々(たまたま)入った喫茶店のマスターから、娘付きでこの店を切り回さないかと持ちかけられる。その娘は「楠木ナオミ」といい、ビリヤードが上手(うま)い。ナオミは柴田をかつてはポルノ女優をしていた母親がやっている食堂に連れていく。以下、作者いわく「コメディの試み」の七編が収められている。二冊を足して十四編、どの人物も実に「小説の登場人物」らしい。だがその“らしさ”は、他の作家が書くそれとは全然違っている。
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 『短編を七つ』幻戯書房・2052円、『ミッキー』講談社・1836円/かたおか・よしお 40年生まれ。作家。


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