書評・最新書評

街の人生 [著]岸政彦

[評者]荻上チキ(「シノドス」編集長・評論家)

[掲載]2014年07月20日

[ジャンル]社会

表紙画像

■優しく聞きとる、隣人の生活史

 著者の岸政彦は、前著『同化と他者化』において、丁寧な聞き取りと見事な分析で戦後沖縄の社会を浮き彫りにした、いま最も注目すべき社会学者だ。最新作『街の人生』は、実にユーモラスな一冊に仕上がっている。
 本書の構成はとてもシンプルだ。外国籍のゲイ、ニューハーフ、摂食障害の女性、シングルマザーの風俗嬢、ホームレスの男性の5人の生い立ちを聞き取り、インタビューの模様をほぼそのまま掲載するというもの。分析らしいものはほとんど加えられない。にも関わらず本書は、読み終えた者の社会認識を改めさせる力を持っている。
 「我々が空想で描いて見る世界よりも、隠れた現実の方が遥(はる)かに物深い」——。本書冒頭では、柳田国男『山の人生』のこのような一節が紹介されている。『山の人生』は、「山へ入って還って来なかった人間」や山間部で生きる少数者たちの逸話を聞き取った柳田の初期作品。社会の周縁を漂泊しながら生きていた者たちの姿を通じ、「日本国民」の歩みの多層性を浮かび上がらせた。
 対して『街の人生』では、「山」などの地理的条件に着目せず、それぞれの「街」を生きる者たちの「普通の人生」に焦点を当てていく。
 「たまにお酒飲んで、おもっきし泣いて、あはははは。で終わり。また頑張るわ」(外国籍のゲイ ルイス)
 「すべての差別がなくなればいいなぁ。なくなったらまた何か困ることでもあんのかなぁ?」(ニューハーフ りか)
 私たちはそれぞれの「街」の中で、散り散りに漂泊している。ルポを通じてそれらをのぞき見するというのではなく、また「当事者」という枠で問題化するのではなく、隣人の人生として耳を傾ける。そのことで、既に多様な住人たちが暮らしている「この街」の姿を想像させるのが、本書の大きな魅力だ。そのまなざしは、とても優しい。
    ◇
 勁草書房・2160円/きし・まさひこ 67年生まれ。大阪在住。龍谷大学社会学部准教授。


関連記事

ページトップへ戻る