書評・最新書評

恐怖の作法―ホラー映画の技術 [著]小中千昭

[評者]荻上チキ(「シノドス」編集長・評論家)

[掲載]2014年07月27日

[ジャンル]人文

表紙画像

■手の内さらす、怖さの教科書

 日本では、夏はホラーの季節ということになっている。ホラーファンにとっては喜ばしい習慣だ。財布のひもを緩めすぎると、それはそれでぞっとする結果にもなるが。
 ホラー映画はいかにして恐怖を伝えているのか。そもそも「人が恐怖を感じるもの」の構造はどういったものか。本書ではホラー脚本家の小中千昭が考える「ホラー映画の技術」が丁寧に種明かしされている。小中のホラー映画論が、高橋洋監督や黒沢清監督によって「小中理論」と命名され、広く参照されてきたことは映画ファンの間でよく知られている。
 「明白な因縁」がある怪談話は怖くない。霊能力者をヒロイックに扱わない。ショック演出は恐怖とは違うものの、怖がっていい映画なのだというメタメッセージとなる。廃屋で出くわすのは人骨や腐乱死体であってはならず、「かつて人体であったもの」である髪の毛が「ほど良い」——。観客に「怖い」というエモーションを与えることに献身的な映画を追求するために構築された、独特の演出理論の数々に、いちいちひざを打つ。
 本書は3部構成。1部は、品切れとなっている『ホラー映画の魅力』(2003年)の加筆再掲。2部は、2ちゃんねるのオカルト板を中心に拡散されていった「怖い話」など、現代的な怪談についての総覧や分析。そして3部では、自作を振り返りながら、「小中理論2.0」へのアップデートを試みている。小中自身が「(ホラー脚本家の)手の内を全て晒(さら)してしまった」とまで述べているように、ホラー作品を創る者にとっても見る者にとっても、教科書的な一冊になろう。
 「心霊動画」「クトゥルー神話」「ことりばこ」といったオカルト用語に引かれる人にも、小説や映画の深読みが好きな人にもおすすめだ。ホラー映画、そして小中理論の魅力に感染してみてほしい。
    ◇
 河出書房新社・3024円/こなか・ちあき 61年生まれ。脚本家、作家。『深淵を歩くもの』『稀人』など。


関連記事

ページトップへ戻る