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軍服を着た救済者たち―ドイツ国防軍とユダヤ人救出工作 [著]ヴォルフラム・ヴェッテ

[評者]保阪正康(ノンフィクション作家)

[掲載]2014年08月03日

[ジャンル]歴史

表紙画像

■国家に売りわたさない覚悟

 ナチス権力との闘いに「抵抗か協力か」の二元論的な視点だけで、20世紀の悲劇を総括できるか、と本書は問う。ドイツ国防軍の制服を着た軍人がユダヤ人救出に関わった史実を改めて発掘、整理したのだが、いずれのケースにも人間存在の本質を見ることになる。
 ドイツ国防軍に籍を置いた中で、ユダヤ人救出に関わったのは編者の調査では40人から45人という。イスラエルが表彰している「正義の人」は約1万7500人、そのうちドイツ人は336人、その1割が軍籍を持つ者だった。確かに微々たる存在だが、救済者には5段階モデル(事態の認識から実際の救済行為まで)があるという心理学者の研究によると、この40人余は単に勇気があるというより信仰、信条、思想などに誠実に生きた稀有(けう)の存在だったということになる。
 作家、歴史家、ジャーナリストなど10人がその個人の実像を描いている。たとえばドイツ敗走兵を再び戦線に送り返す役を担っていた軍曹は、国防軍のトラックを利用して300人以上のユダヤ人を救った。この軍曹はユダヤ人抵抗運動にも生命の危険を顧みず協力している。やがて逮捕され処刑される。妻と娘の手紙にはこの理不尽な時代への怒りがある。ユダヤ人の集団を連れだし、市内を行進しながら救済した軍人もいる。この軍人はさまざまな形でナチスに抵抗して救済を続けるが、その行動の動機は「a人類愛、b確固たる意思、c能力」だったと明かす。
 救済行為にたずさわった軍人・軍属には、自らの人生の歩みや生きる姿勢を、軽々に国家権力に売りわたさないという覚悟がある。むろんそのように考える国防軍兵士は多かったろうが、最終的に救済を決める動機は、教育や「人格と生活様式の中で身についている」との結論に達する。現代に通じる重要な指摘というべきだ。
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 関口宏道訳、白水社・2592円/Wolfram Wette 40年生まれ。作家。71~95年、フライブルク大で近現代史を担当。

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