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アデナウアー―現代ドイツを創った政治家 [著]板橋拓己

[評者]吉岡桂子(本社編集委員)

[掲載]2014年08月03日

[ジャンル]歴史

表紙画像

■「国父」の生涯から描く戦後史

 ドイツが気になる。
 第2次世界大戦後の償いや歴史認識をめぐって、中国が優等生のドイツと落第生の日本という宣伝を世界中で繰り広げている。そう単純じゃないよと言い返したくもなるだけに、ドイツの戦後史をもっと知りたくなった。
 主人公アデナウアーは敗戦後、73歳で西ドイツの初代首相に就任し、1963年までの14年間、荒廃から復興に導いた。「国父」とも呼ばれる保守政治家だ。同時代の日本を担った吉田茂・元首相との共通性も指摘される。彼の人生を通じて、1世紀近いドイツ史がつづられる。
 伝記は対象とする人が同じでも、書き手はもちろん、書かれた時代の違いで見え方が変わる。この本で言えば、著者があとがきで説明するように、二つの「偏り」がある。
 まず、早くから仏との協調を模索し、米国とも組む「西側結合」で、西ドイツを再び「欧州」へ埋め込むことを優先した外交に力点がおかれている。もうひとつは、イスラエルとの和解を「過去の克服」の出発点と位置づけて、それなりの紙幅をさく。
 東西ドイツの統一を願う民意やナショナリズムを退けたり、閣内の異論を独断で押し切ったりすることも。ナチ体制についてドイツ人の集団としての罪を公には否定したことを、「過去の忘却」と批判する声もある。
 そうした側面を描きつつも本書が残す印象は、国際社会で力を得ようとするとき、手にした権力を用いて「内」の反発を抑えながら「外」に通じる言葉と行動を選ぼうとした姿勢である。変わる内外の政治力学の中で、かけひきして得た評判や和解は国力を高める基盤になるのだ、と。
 いまの日本の政治へのメッセージにも思えてくる。時代や環境の違いばかり強調し、見ないふりはもったいなさすぎる。一直線ではなかったはずのドイツの戦後を知る手始めになる一冊だ。
    ◇
 中公新書・886円/いたばし・たくみ 78年生まれ。成蹊大学准教授(国際政治史)。『中欧の模索』など。

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