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世界で一番美しい猫の図鑑 [著]タムシン・ピッケラル

[評者]横尾忠則(美術家)

[掲載]2014年08月17日

[ジャンル]科学・生物

表紙画像

■芸術家の霊性を引き出す力も

 本書は猫の肖像写真集である。日本で刊行される猫の写真集は、生活環境の中で日常的に振る舞う様々な猫の姿態をスナップ的に撮ったものが多いが、ここに登場する50種以上の猫は精密な機械写真のようでもあり、まるで西洋の古典絵画を見ているような優美な魅力をたたえている。
 アストリッド・ハリソンの写真は猫の魔性を魔術的リアリズムによって見事に描ききっており、愛猫家なら手放せない一冊になろうか。
 猫と人間の歴史は1万年ほどさかのぼるが、その間、猫はその神秘性、優美性によって愛された一方、その魔術的性格から魔女狩りの儀式の犠牲にもなってきた。が、東方では幸福の象徴として愛されてきた。猫は本能的にネズミを捕獲する習性のため、船と共に航海したり、官庁などで飼われたりすることになる。エルミタージュ美術館では常時60~70匹の猫が飼われ、観客動員にも貢献している。
 芸術家の多くは猫を愛し、アトリエで猫を飼う画家も多い。ウォーホルは25匹も飼っていた。ダビンチも愛猫家のひとりである。時には猫は芸術家の霊性を引き出す何らかの力を持ち、その行動様式においても芸術家の資質と一つにするところがある。特に猫のわがままは芸術家が最も愛するところであろう。猫はいかなる環境の中でも遊ぶことを忘れない。そんな点も芸術家のお気に入りなのである。
 また猫は人間の知覚不可能な感覚器官を持ち、肉体感覚を超えた超自然的な予知能力を発揮したり、遠方の見知らぬ土地からでも帰還したりすることがある。猫には芸術家の創造の源泉と共通する領域に接触する能力が、本能的に備わっているのかもしれない。猫と生活を共にしていると、理不尽で不可知なできごとにしばしば遭遇することがあるが、その都度、芸術家のセンセイである猫の存在の偉大さに、つくづく思いを致してしまうのである。
    ◇
 五十嵐友子訳、エクスナレッジ・4104円/Tamsin Pickeral 獣医科の看護師の後、作家に。

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