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死者たちの七日間 [著]余華

[評者]吉岡桂子(本社編集委員)

[掲載]2014年08月24日

[ジャンル]文芸

表紙画像

■この世の絶望、冷めた表現で

 新聞記事のスクラップなのか。それとも、ガルシア・マルケスや魯迅のような味わいなのか。
 著者は、ノーベル文学賞をうけた莫言(モーイエン)とともに中国を代表する作家である。大躍進や文化大革命から改革開放後の欲望全開な現在にいたる壮絶な現代史を、庶民の日常を通じて描いてきた。
 7年ぶりの新しい長編小説(原題・第七天)も、昨年6月に中国で出版されたとたんに議論を呼んだ話題作だ。
 物語は、食堂の火災に巻きこまれて死んだ主人公楊飛(ヤンフェイ)の携帯電話に、葬儀場から火葬の催促が入るところから始まる。生前、お金も権力もなかった楊飛ら登場する死者たちは墓地を用意できず、安息の地へと旅立てない。あの世とこの世のぼやけた縁をさまよう7日間がつづられる。
 彼らの死に方がふつうではない。強制立ち退きによる生き埋め、冤罪(えんざい)で拷問のうえ死刑、一人っ子政策のための強制中絶で医療廃棄物にされた赤ん坊、愛人だった高官の汚職や金ほしさの腎臓の売買にかかわる死——。食の安全にも触れ、汚染米や毒入り粉ミルクまで飛び出す。中国のいまを知る参考書のようだ。
 前作『活(い)きる』『兄弟』などが20カ国語以上に翻訳されるほど世界的に注目を集める作家だけに、知識人からは「中国の現実離れした現実を知らない外国人好みに書かれている」との反発もある。
 想像を絶する事件が相次ぐ中国は、作家にとって創作力が試される「受難」の地なのかもしれない。著者も原著の帯に「現実のはちゃめちゃぶりに比べれば、小説のはちゃめちゃなんてたいしたことはない」と寄せている。
 この世の絶望を「死者」ゆえの少し冷めた表現で吐露させながらも、家族や恋人、友人、隣人とのつながりや愛情のぬくもりを奏でる。格差や理不尽への強烈な風刺をくるむように、物語は流れていた。
    ◇
 飯塚容訳、河出書房新社・2484円/ユイ・ホア 60年生まれ。作家。『血を売る男』『ほんとうの中国の話をしよう』など。

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