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声の世界を旅する [著]増野亜子

[評者]赤坂真理(作家)

[掲載]2014年08月24日

[ジャンル]人文

表紙画像

■体と感情に響く、古き息の歌

 声の芸術芸能がなかった民はない。人間は、泣いて生まれてきて、死ぬときに息をひきとる。声とは息。歌は息とともにある人間の、最古の表現の一つだろう。そして最古の歌とは「泣き」であり、それはそのまま(祝福や追悼の)祭祀(さいし)だったのではないか?
 冒頭にある「泣き歌」は、コントロールできない感情を、歌というかたちに収め「泣く」ことにより共同体全体で悲しみを共有する。人や共同体が復活させるべきは、こんな祭祀ではないだろうか。
 本書の旅は時空を超え、体と感情とにダイレクトに響く。口だけで楽器を演じ分ける芸能、声を意味から切り離した歌、歌を「ヨム」ことで男女の結びつきと豊穣(ほうじょう)を寿(ことほ)いだ歌垣、動物とのコミュニケーション、果てはボーカロイドまで巡りながら、生活に即した歌を思い出させてもくれる。例えば子供の長縄跳びのときの歌は、ちゃんと全員がタイミングをとれる仕掛けになっていた。声の世界はとてつもなく深く豊かだ。
    ◇
 音楽之友社・2700円

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