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戦争に隠された「震度7」―1944東南海地震・1945三河地震 [著]木村玲欧

[評者]荻上チキ(「シノドス」編集長・評論家)

[掲載]2014年08月31日

[ジャンル]社会

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■教訓の継承阻む報道規制

 1944年の東南海地震、45年の三河地震。いずれも震度7相当の大きな揺れに襲われ、津波も発生し、多くの犠牲者を出した大災害だ。戦時下の日本。物資が少ない中での支援・復旧は容易ではなかった。だが、さらなる問題が被災地を襲う。この二つの災害は、政府及び報道機関によって「隠された」のだ。
 死者・行方不明者がそれぞれ千人を超える大災害。だがいずれの場合も、翌日の新聞では「被害微小」と、事実と異なる報道がなされた。政府も報道機関も、被害状況は把握していた。にもかかわらず、戦力低下が国民や外国に知られることを恐れ、検閲の徹底を優先したのだ。
 事前検閲が励行され、被害に関する数値は留保された。被害程度は局地的な放送のみ許され、公的施設の被害についての報道は規制された。被害内容のメモを記者に渡した調査員は「貴様、非国民や」「地震情報を漏らした」と、失神するまで拷問を受けた。
 報道規制は、支援や復旧を遅らせるばかりでない。活字化が禁止されることで、証言や教訓を次世代に残す試みをも阻害するのだ。実際、この二つの災害を知り、教訓として語り継ぐ者は少ない。なお、そうした「努力」もむなしく、諸外国は災害の実態を正確に把握していたのだが。
 これらの制約がありながらも、地元紙は支援情報などを連日取り上げる努力をしてはいた。本書は、報道の記録をたどり、メディアが何を伝え、何を伝えられなかったのかを浮き彫りにする。また、被災者にインタビューを行い、災害状況を再現・検証し、そのうえで防災ワークシートのひな型を提案する。「隠された」ことへの告発に終始せず、未来志向の防災教育につなげる手並み。さすがは防災研究者だといえよう。
 戦後69年、防災の日、南海トラフへの備え。この機に本書を読む意義は、どれだけ強調しても大げさにはならない。
    ◇
 吉川弘文館・2160円/きむら・れお 75年生まれ。兵庫県立大准教授(防災心理学)。災害関連の共著多数。

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