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紙つなげ!彼らが本の紙を造っている―再生・日本製紙石巻工場 [著]佐々涼子

[評者]内澤旬子(文筆家・イラストレーター)

[掲載]2014年08月31日

[ジャンル]社会

表紙画像

■被災社員が救った出版の危機

 本の造作の良し悪(あ)しは、本文紙で決まると思っている。本を構成する紙の中でも体積重量ともに大半を占めるのが本文紙なのだ。地味ではあるけれど、100枚の束になったときの表情は、実に多様。めくり具合、重さ、色や風合いなど、本の用途に合わせて配合を変えて作られている。本を読み進める気分にだって強く影響する。
 東日本大震災の1カ月後だったろうか。拙著を増刷するにあたり、紙の入手が難しく、初版と種類を変えねばならない旨を版元から聞かされた。あの紙は石巻で作られていた紙だったのだろうか。
 本書は日本製紙石巻工場が2011年3月11日に被災し、巨大津波に呑(の)まれ、完全に機能停止となってからごく短期間で奇跡的復帰を果たすまでのノンフィクションである。
 石巻工場の「8号」とよばれる抄紙機(しょうしき)は、単行本や文庫本の本文紙を作る。日本製紙はこの「8号」を、まず半年後に稼働させることを決める。
 いくら出版社と紙を供給しつづけると約束したからといって、不可能だ。石巻ではないけれど、抄紙機は見学したことがある。とにかく巨大なのだ。機械の端から端まで、遠すぎてかすんでしまうほどの距離があった。そこが塩水を被り、さらに瓦礫(がれき)と泥でいっぱいになって、遺体だってあって。電気も水道も通っていないところを、社員たちが、彼らとて被災者なのに、ひたすら手で泥を掻(か)き出すところから始まるのだ。力を合わせ、実現に近づけていく。切れの良い文章に引き込まれ、無理はまさかになり、ひょっとしてと思ううちに、信じられない奇跡まで、息つく間もなく連れていかれる。
 本書でも触れられているように、出版業界は収縮傾向にある。本は以前ほど売れない。それなのにまず8号を動かすことに力を尽くしてくださったことは、忘れまい。本を書き読み、愛する者は。
    ◇
 早川書房・1620円/ささ・りょうこ 68年生まれ。12年、『エンジェルフライト』で開高健ノンフィクション賞。

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