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ファーム・コミットメント——信頼できる株式会社をつくる [著]コリン・メイヤー

[評者]諸富徹(京都大学教授・経済学)

[掲載]2014年09月07日

[ジャンル]経済

表紙画像

■儲けるために存在するのでなく

 「株式会社は誰のために、そして何のために存在するのか」という古典的な問いに対する現在の通説的な回答は、「株式会社は株主のために存在し、その価値最大化を目的とする」というものだ。株主に最大利益を保証できる会社こそが、良い会社だというわけだ。実際英米法は、取締役に対し、法令違反を犯さない限り、あらゆる手を尽くして株主価値を最大化するよう義務づけている。日本でも会社法が改正され、コーポレートガバナンス・コードの導入が議論される背景には、株主価値最大化を促す企業統治改革に狙いがある。ところが本書は、こうした動きを正面から批判し、代替的な企業統治改革を提案する斬新な書だ。
 なぜ、株主価値最大化には問題があるのか。それは企業が、株主の短期的利益の最大化に邁進(まいしん)する結果、企業と深い関わりをもつ様々なステークホルダー(利害関係者:労働者、消費者、地域住民など)の長期的利益が失われるからだ。つまり従業員、消費者、地域社会、環境や生態系など利潤にはつながらないが、社会にとっては大切な要素の切り捨てにつながるのだ。
 では、どうすればよいのか。著者は三つの提案を行う。第1は、企業の「使命」の明確化だ。企業は儲(もう)けるために存在するのではなく、使命を果たした結果、儲かるのだ。そのためにも企業が、ステークホルダーの信頼をえて使命を実現する「コミットメント」が重要になる。第2は、取締役会から独立し、ステークホルダーの長期的利害を反映させるよう取締役会を監督する「受託者評議会」の導入だ。第3は、株式の長期保有者により多くの議決権を付与し、企業の長期志向を促す意思決定メカニズム改革だ。
 グローバル化でますます多国籍化し、一国を凌(しの)ぐ力をもつ巨大企業まで出現した今日、本書の視点で株式会社の本質を問い直す意義は、一層高まっているといえよう。
    ◇
 宮島英昭監訳、NTT出版・3024円/Colin Mayer 58年生まれ。オックスフォード大学教授(企業金融)。

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