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裏山の奇人―野にたゆたう博物学 [著]小松貴

[評者]佐倉統(東京大学大学院情報学環長・科学技術社会論)

[掲載]2014年09月21日

[ジャンル]科学・生物

表紙画像

■自然の不思議が「見える」人

 スーパー・ナチュラリストの作り方、といった趣の本である。なにしろ著者は、二歳のころから真剣にアリを観察していたというのだから、筋金入りの虫オタク。長じてプロの昆虫研究者となり、今まで気づかれなかったような現象を次々と明らかにしている。
 こんなに、自然の不思議が「見える」人も珍しい。研究対象はアリに寄生したり共生したりする生物が中心だが、それだけではなく、およそ目につくさまざまな生物を調べて、身の回りの不思議を見つけ出し、当たるをすべて薙(な)ぎ倒していくかのような勢いで、謎を解き明かしていくのである。自然の姿を隅々まで知り尽くしていて、骨の髄まで染みこんでいるから、ごくわずかな不思議を感知することができる。そこに彼の身体と頭脳が鋭敏に反応する。
 こういうところは、今は亡きウィリアム・ハミルトンと同じ匂いを感じる。進化生物学に革命を起こしたイギリスの理論的研究者だが、彼も根っからのナチュラリストであった。偉大な理論家とは誰よりも事実のすみずみにまで習熟した人なのである。
 小松貴も、普通の人なら見逃してしまうような裏山の身近な現象に潜む謎を察知する。「裏山の奇人」たる所以(ゆえん)である。なお、研究のあり方や自然保護などに関する著者の感覚はきわめてまっとうで、およそ奇人というようなものではない。
 あと、写真が恐ろしく上手。口絵のアズマオオズアリとスティロガステルの写真には、思わずため息が出た。どうしたらこんなに生々しくも美しい写真が撮れるんだろうか?
 残念ながら、生物の種名索引がない。楽しいエピソードを後で読み直そうと思っても、該当箇所をなかなか見つけられないのは不便だ。
 物事を創造的に考えるためには、身体に染み込んだ膨大な知識が出発点となる。そのことを改めて痛感させられる、豪快で痛快な一冊だ。
    ◇
 東海大学出版部・2160円/こまつ・たかし 82年生まれ。九州大学熱帯農学研究センターの研究員。


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