書評・最新書評

サイボーグ昆虫、フェロモンを追う [著]神崎亮平

[評者]赤坂真理(作家)

[掲載]2014年09月21日

[ジャンル]科学・生物

表紙画像

■「完全形生物」の驚異的世界

 昆虫は、地球上で最も繁栄している種である。いわば、神の手で開発され、自ら進化・適応した完全なサイボーグ。その「最新型」が、そこにいる。唐突なほど自然に、静かに。昆虫にぎょっとする人が多いのは、もしかしたら「彼ら」が、あまりに完全形だからではないだろうか?
 昆虫内部をさぐる前に、著者は驚きの世界に私たちをいざなってくれる。すなわち、「私たちが昆虫になったなら、その体感はどうなのか?」を、体験させてくれる。こうした想像力と描写が、本書の大きな魅力のひとつだ。昆虫のサイズになったなら、空気はまるで「蜜の中にいる」ように重く粘りがあるものだという。その中を、彼らは歩き、飛ぶのだ。
 また昆虫は、ある意味で我らより賢い。どんな生物より地球や植物たちとの共生の仕方を知っている。人にあまり愛されないかもしれないが、この惑星の、尊敬を払うべきはるか先住民。彼らに学ぶべきことは、あまりに多い。
 著者が「師」とも仰(あお)いだのは、カイコガのオスである。わずか米粒一つほどの脳、口もなく、羽は飛べない。羽化すると、メスの出すフェロモンを感知し、場所を特定して到着するだけの個体。しかし、どんな邪魔をしようとそのつど適応して、フェロモンの場所へと到達する。
 筆者はカイコガの神経活動をつぶさに計測し、神経回路モデルをコンピュータに構築し、それをロボットに接続する。世界に類を見ない、探索・救助ロボットとなるかもしれない。それだけでなく、カイコガの脳自体をロボットに接続して、まさに世界初の「サイボーグ昆虫」をつくったりもする!
 ワンダーと叡智(えいち)と謙虚さにあふれた本。著者は、昆虫たちが、この先も人類がこの星に住み続けられるテクノロジーを教えてくれる——そんなふうに、昆虫に目と耳と知性を傾けているように見える。
    ◇
 岩波科学ライブラリー・1296円/かんざき・りょうへい 57年生まれ。東京大学先端科学技術研究センター副所長。


関連記事

ページトップへ戻る