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敗戦とハリウッド―占領下日本の文化再建 [著]北村洋

[評者]吉岡桂子(本社編集委員)

[掲載]2014年09月21日

[ジャンル]歴史

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■米国映画浸透の歴史、多面的に

 ハリウッド映画は、米国が第2次世界大戦で打ち負かした日本に、「良きアメリカ」を埋めこみ、そのパワーの傘下へと導く装置となった。
 本書は、戦勝国から押しつけられたともいえる映画が日本社会に歓迎され、浸透していった歴史を多面的につづる。事例として、ヒチコック監督の作品やゲーリー・クーパー、エリザベス・テイラーらが出演した懐かしい作品が数多く登場する。映画好きにはとりわけ興味がそそられる占領の外交史であり、文化、社会史となっている。
 連合国軍による占領(1945〜52年)の約7年間で、ハリウッドが配給した長編映画は600本を超える。民主主義を教育し、啓蒙(けいもう)するため注意深く選ばれ、検閲された。たんなる娯楽を超えて、民主、人権や自由など米国が掲げる価値観を潜ませた。政界の腐敗に触れた作品は「見習うべき米国の民主主義が不当に描かれている」と上映が見送られたように。
 日本映画については、戦中の厳しい統制がとかれ、思想や芸術を表現する幅が格段に広がる。だが、あくまでも米国の検閲が前提である。原爆の描き方に強い注文がつき、封建を排する理由で時代劇には否定的だった。
 米国の政府、軍、映画産業の動機は、自らの利益にもとづく。しかし、日本の一部の文化人、ファンは米国の価値観を模範と感じて、すすんで普及に加わる。興行者は商機に突き動かされる。「映画の『消費』を通してアメリカの指揮下での日本再建を肯定する『感情の構造』」が形成されていく。ハリウッドと日本社会の化学反応が興味深い。
 著者は「親米的」社会が日本にうまれたメカニズムの解明を目的とし、是非は問うていない。ただ、通読すると、勝者と敗者という圧倒的な力の不均衡のもとに産み落とされた戦後の日米関係は、脈々と今につながっていることを思い知らされるのだ。
    ◇
 名古屋大学出版会・5184円/きたむら・ひろし 71年生まれ。米ウィリアム・アンド・メアリー大学准教授(歴史学)。


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