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琉球独立論―琉球民族のマニフェスト [著]松島泰勝

[評者]柄谷行人(哲学者)

[掲載]2014年09月21日

[ジャンル]政治 社会

表紙画像

■緊張の東アジアへ、今こそ普遍的意義

 本書は「琉球独立」を提唱するものである。たとえば、スコットランドがイギリスからの独立を求めて住民投票を行ったことに驚いた日本人が多かっただろう。なぜスコットランドが独立を望むのか、私にもよく事情が理解できない。しかし、むしろそれ以上に理解しがたいのは、琉球が日本から独立しないでいることである。
 そもそも琉球は独立した王国であった。1872(明治5)年に琉球藩とされたが、他国との外交関係が残っていたし、はっきりと日本に領有されたのは、日清戦争後である。以来、琉球人は差別されてきた。太平洋戦争では、沖縄は米軍との決戦場とされ、大量の死者を生んだだけでなく、戦後も米国の統治下におかれた。その後、本土に「復帰」はしたが、米軍基地はそのまま沖縄に残された。また、日本から経済的な支援があったようにみえるが、それは琉球の伝統的な産業と自然環境を破壊し、基地に依存するほかない社会を作っただけである。このようにあからさまに「植民地」の状態に置かれてきた琉球の人たちが、独立を考えたとしても当然である。それほど不当に扱われてきたわけでもないスコットランド人が独立を要求するのだから。
 実際、琉球の独立は幾度も唱えられてきたのだが、挫折してきたのである。それは、たんに日本や米国に抑えられてきたからだけではない。独立によって実現すべき積極的な理念を欠いていたことも大きい。現在、東アジアの政治的状況は日増しに緊張を強めており、琉球の独立はますます非現実的であるようにみえる。しかし、著者は現在のような状況だからこそ、琉球の独立は可能であり、且(か)つ、その普遍的意義があると考える。その鍵は、独立した琉球が一切の軍備を放棄するということにある。いわば、日本国家が今放棄しようとしている憲法9条を、琉球が実行するのだ。このような琉球が作る外交関係の網目が、中国、台湾、日本の間の緊張を解く。かくして、琉球の独立は、日清戦争後に形成された東アジアの地政学的な対立構造を解消し、平和を実現する。これが、本書が提示する第一の理念である。
 つぎに、琉球の独立は、琉球王国の伝統を誇る類のナショナリズムにもとづくべきではない。歴史的に、沖縄本島に生まれた王国は、奄美、八重山などの諸島を武力で併合し搾取してきた。薩摩藩あるいは日本国家と同じようなことをやってきたのだ。したがって、歴史的記憶は人々を結びつけるよりも分裂させ、琉球の独立運動を自壊させてきたのである。それに対して、著者が提起するのは、琉球を各島の自治にもとづく連邦共和国とするという構想である。
    ◇
 バジリコ・1944円/まつしま・やすかつ 63年、沖縄県石垣市生まれ。グアムやパラオの日本国総領事館・大使館専門調査員、東海大海洋学部助教授などを経て龍谷大教授(島嶼=とうしょ=経済)。琉球民族独立総合研究学会共同代表。『琉球の「自治」』など。


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