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ひねくれ古典『列子』を読む [著]円満字二郎

[評者]三浦しをん(作家)

[掲載]2014年09月21日

[ジャンル]人文

表紙画像

■物語を愛し求めた心に共感

 いきなり漢文を読めと言われても腰が引けるが(というか無理だが)、中国の古典の世界を知りたい。欲を言えば、『論語』や『老子』ほどメジャーではない書物について知り、ちょっと通(つう)ぶってみたい。
 そんな、「初心者のくせにひねくれもの」におすすめしたいのが本書だ。『列子』の魅力と読みどころについて、とても楽しく紹介してくれる。初心者にとってわかりやすいつくりで、当時の時代背景や登場人物についての解説はもちろん、『列子』に収録されたエピソードから、この書物の編纂(へんさん)過程を推測したりといった、ややマニアックで好奇心をくすぐる項もある。
 なによりもわくわくするのは、やはり『列子』に記された奇天烈(きてれつ)エピソードの数々だろう。馬の性別も毛色も判別できない名馬鑑定師。「無闇(むやみ)に才能をダダ漏れにしちゃいかん!」と列子を叱りつける(いちゃもんをつける?)先輩。人間顔負けの歌や踊りを披露したうえに、美人に向かってウインクまでしてみせるロボット。それを見て激昂(げっこう)し、ロボットの製作者を死刑にしようとする王様。
 なんだか間抜けでダメ人間っぽい登場人物(ロボット含む)のオンパレードなのだ。しかしだからこそ、ページをめくる手を止められない。本書の著者は、同一エピソードが収録された別の書物も参照し、『列子』において、ストーリー展開や細部の設定がどう変えられているのかも検証する。その結果、『列子』が物語性を重視し、人々が思わず話に惹(ひ)きこまれるような語り口になっていることが明らかになる。
 本書を読んで、何千年もまえに生きていた人々への親近感と、いまと変わらず物語を愛し求めていた心への共感を覚えた。「通ぶりたい」という我欲はいつしか消え、しまいには夢中で、笑ったり考えさせられたりしながら、『列子』の世界に没入していた。
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 新潮選書・1404円/えんまんじ・じろう 67年生まれ。フリー編集者。『常用漢字の事件簿』『漢和辞典に訊け!』。


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