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文明と文化の思想 [著]松宮秀治

[評者]水野和夫(日本大学教授・経済学)

[掲載]2014年09月21日

[ジャンル]人文 ノンフィクション・評伝

表紙画像

■新しい神話を生んだ西欧近代

 評者が漠然と感じていたグローバリゼーションなどの不気味さの正体を知らしめてくれたのが、前著『ミュージアムの思想』(2003年)と『芸術崇拝の思想』(08年)だった。第3弾の本書は、西欧近代の価値観の本質とその限界を解き明かしている。
 西欧近代思想が世界を席巻したのは、神話的な根拠を失った善や正義に、「進歩」と「文明」「文化」という概念を通して、時代に即応するような「絶対性を与えることができた」からだと著者はいう。
 著者によれば、「進歩」の観念に沿って「人間の世俗活動」を、物質的豊かさである「文明」と、精神的内面的活動の成果である「文化」で再構成したものが「世界史」である。これを語りうるのは「西欧の近代思想のみ」。ヘーゲルの「自由」とウェーバーの「合理精神」が、西欧圏の「非西欧圏に対する優越性の主張の論拠」となる。
 「世界史」はまた、「記憶を創り出す作業」でもある。そこで西欧は記憶の基となる未知なるものを「全世界から蒐集(しゅうしゅう)」した。世界は「西欧近代(略)の価値体系によって、整序され、分類され」ねばならなかった。
 「文明」は、知や合理的思考が輝かしい未来を約束するという、「文化」は、国民や民族が価値基盤を与えるという“幻想”を発明し、西欧近代思想は世界に向かうところ敵なしとなる。ここに「西欧『近代』の最大のパラドックス」があると著者はいう。神話から解放してくれたはずの近代が新たな神話を生む。
 21世紀のはじめに起きた9・11など様々な「未曽有の出来事」は、著者のいう「『世界史』がそれ自体ひとつの壮大な虚構の価値ではなかったか」を暗示していると思うが、世界遺産登録やオリンピック誘致に熱狂しているのを見ると、西欧近代思想は、実際まだまだ強力だ。本書を読み、つくづく21世紀には新しい理念が必要だと痛感した。
    ◇
 白水社・3456円/まつみや・ひではる 41年生まれ。元大学教員。『ミュージアムの思想』『芸術崇拝の思想』。


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