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炎を越えて―新宿西口バス放火事件後三十四年の軌跡 [著]杉原美津子

[評者]保阪正康(ノンフィクション作家)

[掲載]2014年09月21日

[ジャンル]ノンフィクション・評伝

表紙画像

■「被害者」ではない人生描きだす

 1980年8月の新宿駅西口バス放火事件。加害者Mは「世間に対して恨みや憤りの感情を持ったことが主たる要因」(判決文)で、停車中のバス車内にガソリンを撒(ま)き、火をつけた。6人が死亡、14人は重軽傷を負った事件である。冷酷な都市犯罪だった。
 著者は傷を負った14人のうちの1人で、奇跡的に回復、しかし手術時の大量輸血からくる肝臓がんと闘っている。この事件により大きく運命が変わったわけだが、本書はその生き方を改めて世に問うた。著者の視点は、「条理」と「不条理」などの二極対比の人生観、社会観を解体しようと試みる。自らの人生を母、兄、さらに恋人との葛藤の目で捉え、「被害者」ではない人生を描きだす。
 Mを「加害者」と見るだけでなく、被害者の側面があるとも訴える。獄中のMに会ったり、その生家を訪ねたり、犯罪被害者の枠を超えて人間本来の「性(さが)」をさぐる。独自の価値観の誕生を感じさせる異色の書である。
    ◇
 文芸春秋・1512円


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