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エヴリシング・フロウズ [著]津村記久子

[評者]佐々木敦(批評家・早稲田大学教授)

[掲載]2014年09月28日

[ジャンル]文芸

表紙画像

■勇気ある正義描いた「中三小説」

 ヒロシは中学三年生。平均より小柄で、離婚した母親と二人暮らし。絵を描くのが好きだが、自分よりも上手(うま)いのではと思う女子、増田の存在にややめげている。クラスでは地味な方だが、ソフトボール部の異様に明朗快活な女、野末のことが気になっている。学年が上がってクラス替えがあり、矢澤という男と話すようになった。ヤザワは背が高く、妙に大人びた雰囲気のある、口数の少ないヘンな奴(やつ)だ。二人は席順が前後ろだったのだが、不思議と気が合った。少なくともヒロシの方は、そう思っている。これは、そんなヒロシと、その周囲の少年少女たちの、一年間を追った物語である。
 二年前の『ウエストウイング』では小学生だったヒロシは、思春期を迎え、高校受験を控えて、年相応にあれこれ思い悩んでいるが、思い悩んでいる様子を表に出したくない、というこれまた思春期ならではの自意識も、人一倍強く持っている。そのせいもあって、日々はたぶん実際以上に、面倒なものになっている。ヤザワにはよくない噂(うわさ)があった。ヒロシは信じていないが、噂は次第に大きくなり、或(あ)る事件に至る。小説の前半はその話が中心で、後半は、中学最後の文化祭に向けて、ヒロシとヤザワ、野末、増田、そして野末と同じソフト部の大土居が、野末のゴリ押しで、何故(なぜ)か大土居の家で一緒に準備作業をする顛末(てんまつ)が描かれる。大土居には小学一年の妹かえでがいる。ヒロシは前から大土居のことが苦手だったが、或る出来事以後、ますます不可解に思うようになった。どうも女たちの動きには、隠された理由があるらしい……。
 作者はこれまでも、ほぼ一貫して、弱い立場の者たちの勇気ある正義を描いてきた。この作品も例外ではない。これはすぐれた「中三小説」であると同時に、それだけではない。痛みを押し流すような、爽やかな風が吹いている。
     ◇
 文芸春秋・1728円/つむら・きくこ 78年生まれ。作家。『ポトスライムの舟』『ワーカーズ・ダイジェスト』など。


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