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別荘 [著]ホセ・ドノソ

[評者]杉田敦(政治学者・法政大学教授)

[掲載]2014年09月28日

[ジャンル]文芸

表紙画像

■終わりなき征服と抵抗の物語

 金箔(きんぱく)取引で富を築いた一族は、毎夏、地方の広大な別荘で、使用人たちにかしずかれ、蕩尽(とうじん)を続けた。しかし、その日々は、大人たちが日帰りの(はずの)ハイキングに出たのをきっかけに一変する。壁の騙(だま)し絵や遊び歌の中にひそんでいた秘密が次々にあらわとなり、別荘に取り残された33人の子供たちを翻弄(ほんろう)するのである。「食人習慣」をもつと恐れられ、蔑(さげす)まれてきた「原住民」たちの真の姿とは。そして、彼らと白人一族との間には、いったい何があったのか。
 『夜のみだらな鳥』で知られるチリの作家ホセ・ドノソの、もう一つの代表作である本書は、1973年9月のクーデター直後に、その執筆が開始されたという。
 大人たちがいない中、原住民と子供たちは、生産を軸とした生活を共に始める。ところが、それを「食人習慣」の復活と見なす大人たちは、使用人らに命じて、血なまぐさい弾圧にふみ切る。命令されて動いた使用人たちは、それまでの「顔のない」存在から、顔をもち権力をふるう存在にいつしか変わり始める。こうしたすべては、原住民に寄り添うアジェンデ政権が、ピノチェト将軍らによって打倒された経緯をふまえているように見える。
 しかし、この小説を特定の事件だけに結び付けるのは、適切ではあるまい。大人たちの一日が子どもたちの一年に相当するという具合に、ここでは時間が伸縮し、ねじ曲げられている。時間を超越した物語は、征服や支配が一回かぎりのものではなく、たえず繰り返されてきたことを示しているのではないか。
 そうであるなら、抵抗にも終結はない。夏の終わりに無数の綿毛を吐いて人びとの呼吸を奪う奇怪な植物。運命を象徴するかのような、この植物の攻撃に抗して進もうとする子供たちの姿が眼(め)に焼き付く。類いまれな想像力が生み出した、現代の古典である。
    ◇
 寺尾隆吉訳、現代企画室・3888円/Jose Donoso 1924年、チリ生まれ。各国で小説を執筆、81年帰国。96年没。


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