宇江敏勝「鬼の哭く山」書評 死者とも共生する人々の心根
評者: 朝日新聞読書面
/ 朝⽇新聞掲載:2014年09月28日
鬼の哭く山
著者:宇江 敏勝
出版社:新宿書房
ジャンル:小説・文学
ISBN: 9784880084497
発売⽇:
サイズ: 20cm/213p
鬼の哭く山 [著]宇江敏勝
修験道の開祖・役行者の弟子の子孫で名字に「鬼」の字を持ち、大峯奥駈(おくが)け道の宿坊を守る男の生涯をスケッチした表題作を始め、山深い熊野の自然に培われた暮らしと、人々の思いを描く4編を収める。
「納札(おさめふだ)のある家」は、巡礼のための善根宿を営む女性の、明治のころの回想。「亡者の辻」では、南方熊楠の植物採集を目にしながら荷を背負う配達人が、亡くした子と山中で出会う。「栗の壺杓子(つぼじゃくし)」では、東日本大震災と、明治の三陸大津波、戦後すぐの南海大地震の津波とが重ねられる。交通・流通の便利さと引き換えに失われた古来の山の生活、異界を身近に感じ、死者とも共生する人々の心根が静かに描かれて、印象深い。
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新宿書房・2160円