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浮浪児1945−戦争が生んだ子供たち [著]石井光太

[評者]赤坂真理(作家)

[掲載]2014年10月05日

[ジャンル]社会

表紙画像

■存在を消された者たちの物語

 「浮浪児」とは主に戦災孤児、戦後最も存在を消された戦争被害者である。子供が生き延びるのは「自己責任」だった。政府は彼らに保護や安全を与える代わりに、「浮浪児狩り」をした。70年代ごろまで表現作品に数多くあった「みなしごもの」。それは「浄化」され消えた者に与える慰撫(いぶ)だったのではないか。
 本書の前半部分には、元浮浪児の目を通してみた現実の風景が描き出されている。特に戦略爆撃(民間人の無差別殺戮〈さつりく〉だが)を受けた都市での、極度の飢えと混乱。幼い子供が自力で生き抜くのは想像を絶する苛酷(かこく)さだ。いい話はむしろ裏社会のそれだった。ヤクザが仕事ぶりをほめてくれたこと。盗みを学べる「スリの学校」。スリの親分は読み書きや計算も教えてくれた。独立したほうが実入りがよくても、大半の子供たちが去ろうとしなかった。
 目の前で落命し、あるいは殺され、あるいは自殺した子供たち。最も小さく無防備な者たち。秩序が戻るとヤクザにも捨て駒にされていく。
 後半は、そんな子供たちに居場所と食べ物と愛情を与えた女性のつくった孤児院を中心に話が進む。「一番の成功者」と言われる卒園者の半生は圧巻である。バブル期に鉄鋼業で年商数十億、芸能人のパトロンになりニューヨークで宝石を買い漁(あさ)るも貧しさが身に刻印されていた。ここにあるのは実は、戦後日本人の象徴的姿である。バブルは好景気のよい時代などではなかった。底なしの闇を知るからこそ天井知らずに舞い上がらずには気がすまなかった悲痛な日本人たちの狂騒だった。
 これはがむしゃらに生きざるを得なかった人たちのドキュメントである。彼らを政府が放置したことが、どれほどの混迷を生んだか、という痛ましさの物語でもある。
 私たちは、あの戦争の余波を生きている。まだ完全に立ち直れない。新しい戦争をする余力などどこにもない。
    ◇
 新潮社・1620円/いしい・こうた 77年生まれ。幅広いテーマで執筆。『絶対貧困』『遺体』。小説『蛍の森』。

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