書評・最新書評

出使日記の時代——清末の中国と外交 [著]岡本隆司、箱田恵子、青山治世

[評者]吉岡桂子(本社編集委員)

[掲載]2014年10月05日

[ジャンル]歴史

表紙画像

■列強支配に揺れ動く外交官

 大使ら外交官が赴任先の政治、経済、社会情勢や相手国との交渉について、本国・外務省への報告を前提に書いた日々の記録。「出使日記」をいまふうに言えばこうなる。その意味で、日記といえども私的なものではない。この本では、見聞録にとどめず、外交の一大史料群として読み解く。いまや他国を翻弄(ほんろう)するようになった中国外交の由来を訪ねる作業でもある。
 日記が書かれたのは、清朝末期の1870年代から1890年代。西洋列強は利権を求めて押し寄せ、日清戦争には敗れる。「辺境の小国・朝貢国に対し歴代、深い仁徳、厚い恩恵で」遇してきたと自認する中国流は壁にぶつかる。法律も外交の武器に用いる欧米流より「はるかに勝っている」とも言い切れず、情報収集の必要性が高まった。
 書き手は、皇帝の使臣として欧米や日本などに派遣され始めた外交官たち。「『公法の外』にある害、『内』に入る利をみすごしてきた本国」への苦言や、コネやカネで官位を得る風潮への愚痴も記す。列強が支配する国際秩序と、国内の混乱に右往左往する王朝の論理との板挟みに格闘する姿が浮かぶ。
 ソトを知る外交官は国内の社会から浮きあがりがちだ。対外意識が揺れ動く当時の中国では、顕著だったようだ。米国に赴任し、華人迫害事件をめぐって国務長官とわたりあった張蔭桓は、明治維新にもならう体制改革「変法」を支持して、辺境ウルムチで殺されてしまったという。
 日本にかかわる日記は一時期を除いて、他国と比べて学術的な調査が目立ち、文化的な優越感からか日本のなかに日本を見ず、中国自身や西洋の近代を探そうとしたとする指摘は興味深い。
 著者たちは数百にのぼる史料を10年以上かけて丹念に読みくらべた。難解な部分もあるが、専門家の労苦の粋をいただく読書の楽しみに、改めて気づかされる本でもある。
    ◇
 名古屋大学出版会・7992円/岡本氏は京都府立大准教授、箱田氏は宮城教育大准教授、青山氏は亜細亜大講師。

関連記事

ページトップへ戻る