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スターリン―「非道の独裁者」の実像 [著]横手慎二

[評者]保阪正康(ノンフィクション作家)

[掲載]2014年10月12日

表紙画像

■20世紀はどんな時代だったのか

 20世紀のある時期に誕生し、70年余の生命を保ち、そして崩壊したソ連の社会主義政権。その前半期を担ったのがスターリンである。彼の没後、指導部の一員だったフルシチョフは、「粗暴、大粛清、軍事的失敗、個人崇拝」の4点を挙げて、スターリン批判演説を行った。
 同時代史の中でゆれ動くスターリン像から少しずつ客観的、歴史的に実像が練られている。本書は未公刊の資料は使用していないが、近年ロシアで明かされている文書も引用して、新たに実像に迫る意欲的な書である。フルシチョフの批判は、ある面では適切でないことがわかる。
 たとえば1936年から38年までの間に、政治上の理由で逮捕された者は134万人余に及ぶが、そのうちの68万人余が粛清された。この責任はスターリンにないとはいえず、「農業集団化の悲惨な結果が出発点にあり、その責任を糊塗(こと)する過程」で起こった。とはいえ地方レベルでの大粛清にはスターリン指導部が直接に関与したとはいえないケースも多々あるという。
 グルジアで生まれたスターリンの幼年期からの成育歴、青年期からの革命運動への没頭。指導部に入っていき、やがて独裁権力を握りソ連を率いていく。本書は、その直線的な歩みを辿(たど)りながら、意図的な誤解を正していく。農夫を讃(たた)える詩をつくるロマンチシストがゆっくりと革命家になっていくが、権力に近づくにつれて大胆に、そして戦略・政略を駆使しながら、その頂点に登りつめていく様は、まさに20世紀がどんな時代だったかを存分に語っている。
 一国社会主義を主張し、5カ年計画を進めるも農業政策では何度もつまずく。餓死者も百万単位である。ヒトラーとの戦いでは最終的に勝利となるが、第2次世界大戦で祖国を防衛した指導者との見方が、すべてのマイナスを克服する国民的尺度だという指摘に考えさせられる。
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 中公新書・972円/よこて・しんじ 50年生まれ。慶応大教授。著書に『日露戦争史』『現代ロシア政治入門』。

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