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松居直自伝・松居直と『こどものとも』・翻訳絵本と海外児童文学との出会い [著]松居直

[評者]佐倉統(東京大学大学院情報学環長・科学技術社会論)

[掲載]2014年10月12日

[ジャンル]ノンフィクション・評伝

表紙画像

■名作絵本を生みだした「目利き」

 昔読んだ(読んでもらった)絵本についての記憶は、驚くほど鮮明だ。『ぐりとぐら』『どろんこハリー』『いたずらきかんしゃちゅうちゅう』『おおきなかぶ』……。名前を聞いただけで、リズミカルな言葉と、ちょっとユーモラスな絵が、またたく間によみがえってくる。
 これらの名作絵本をプロデュースしていたのが、福音館書店の名編集者だった松居直である。彼が見いだしてメジャーになった作家は、安野光雅、加古里子、長新太、寺村輝夫、中川李枝子、山脇百合子など数知れず。
 この「目利き」は、幼少期に親しんだ日本美術と、文学や芸術に造詣(ぞうけい)の深い家庭環境によって培われた。むさぼるように展覧会に通ったさまが、「松居直の世界」第1巻の『自伝』に描かれている。当時から、世評に左右されない独自の審美眼を持っていたようだ。後に編集者になってからは、絵であれ文であれ、相当な大物作家にもダメ出ししているのが印象的である。
 「松居直の世界」第2巻は、彼が創刊して日本絵本界の金字塔となった「こどものとも」シリーズのうち149冊についての、成立背景の解説。一冊一冊について、貴重な証言が語られている。同第3巻は、海外作品や海外絵本作家との交流について。
 どのページも、懐かしさでいっぱいだ。自分の思い出を紡ぎ出し、湧き出てくる記憶に浸るためにページを繰る。そんな読書体験があってもいいじゃないか。
 そしてこの懐かしさは、ぼくの息子や娘についても類似のものだったようだ。松居直の世界は、彼らにとってもまた魅力的なのである。よい絵本は、世代を超えて受け継がれ、社会の共通文化となる。
 私事ながら、松居さんとぼくの父が同年生まれであることを、初めて知った。良い絵本をたくさん与えてくれた亡き父に改めて感謝しつつ、松居さんの御健勝を祈りたい。
   ◇
 ミネルヴァ書房・「シリーズ・松居直の世界」全3巻、1944〜3024円/まつい・ただし 26年生まれ。

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