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殺人出産 [著]村田沙耶香

[評者]荻上チキ(「シノドス」編集長・評論家)

[掲載]2014年10月12日

[ジャンル]文芸

表紙画像

■狂気・正常、境界揺るがす

 10人産めば1人を殺してもいい。そんなルールが埋め込まれた社会。男性も、人工子宮を使うことで制度を利用できる。そこでは、条件付きで「殺意」が受け入れられ、社会を維持するための尊いものだとたたえられる。
 「産み人」になった姉を持つ育子は、当初その行為を「狂ってる」と拒絶する。一方の姉は、肥大する殺人衝動に若いころから苦しみ、「産み人」制度を救いだと受け取っていた。そんな姉のことを思い、日々を過ごすうちに、育子の中で「産み人」制度についての意味が変化していく。
 村田沙耶香の小説は、「狂気」と「正常」の線引きを揺るがす。現代と異なる科学発達を描き、読者に倫理的な課題を突き付ける点で、極めてSF的でもある。現代社会でも、暴力は条件付きで許可されている。国家が行う死刑。戦地での戦闘行為。少し前であれば、家族内暴力は看過されてしまっていた。「正常」はどこにあるのかと読者に迫る、破壊力たっぷりの作品。
    ◇
 講談社・1512円


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