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ドキュメント平成政治史 (1)崩壊する55年体制(2)小泉劇場の時代 [著]後藤謙次

[評者]島田雅彦(作家・法政大学教授)

[掲載]2014年10月19日

[ジャンル]政治 社会

表紙画像

■権力闘争の実相、舞台裏から検証

 目下の日本の政治はほとんど戦前の大政翼賛会の様相を呈してきた。過去の自民党の体質を知る人々も、保守主義の変質、リベラリズムの衰退、寛容さや多様性の欠如を指摘しているが、その原因はやはり平成以降の政治的混乱にあるだろう。本書は平成の十七人の首相の功罪、権力闘争の内幕、永田町の人間関係、政策決定までの道程などを舞台裏ウオッチャーの眼差(まなざ)しで検証したクロニクルである。政治家たちの経歴や性格、個人的な恨みや欠点まで見据え、日本の政治的決定がいかに戦争、占領、経済成長といった過去や政治家個人の履歴に縛られているかが如実に示されている。すでに近過去の出来事も忘れられつつある中、平成の政治も歴史記述の対象となったが、人材劣化の歴史を追いかけざるをえないようである。
 一九五五年の結党以来、ほぼ六十年にわたり政権中枢に居座り続け、よくも悪くも保守主義の温床であり続けた自民党はもともと、占領時代に民主化を進めたリベラル派と占領時代に公職から追放されていた戦前回帰志向の保守派の野合によって生まれた経緯がある。それゆえ、護憲派VS.改憲派、国際協調派VS.独自路線派、あるいはハト派VS.タカ派といった対立軸を内包していた。立場を同じくする政治家たちは折々で、宏池会とか、青嵐会とか、経世会といった派閥を形成し、熾烈(しれつ)な権力闘争を展開するようになった。本書の記述を忠実になぞれば、『仁義なき戦い』の政界シリーズが作れる。
 中庸の保守政権が続いた昭和末期から平成になると、田中角栄の弟子たちによる経世会が数的優位を生かし、その領袖(りょうしゅう)である竹下登に代表される調整型の政権運営が中心になる。海部内閣や宮沢内閣を背後で操るような経世会の「院政」がしばらく続く。平成初期は昭和天皇崩御、湾岸戦争、ソ連邦崩壊と世界の激動があり、次いで阪神淡路大震災などの天災、オウム真理教事件など人災があり、またバブル経済が終焉(しゅうえん)を迎え、アメリカの一極支配の時代を迎えた。
 国民からは誰がやっても同じと思われ続けた首相の座には、内外の混乱に対応するにはあまりに内向きかつナイーブな人々が座ってきた。平成の二十五年間だけで十七人。野党の攻勢も強かったし、自民党内部でも異論、反論が多かったので、説得力のある理念や政策なしには政権運営ができなかった。だが、今この時期なら、誰が首相を務めても長期政権になるだろう。周りはお友達だらけだし、野党からの突き上げも恐れるに足りないし、露骨に国家主義を振りかざしても高い支持率を維持できるのだから。だが、次の政権はその尻拭いに大いに苦慮することは確実だ。
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 岩波書店・各2484円、最終第3巻は12月刊行予定/ごとう・けんじ 49年生まれ。共同通信社記者からフリージャーナリストに。82年から政治の現場を取材。著書に『日本の政治はどう動いているのか』『竹下政権・五七六日』『小沢一郎50の謎を解く』など。

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